秋の研究会 2016 レポート
日本バイオリン製作研究会
2016年11月5日 於:TKP東京駅前カンファレンスセンター
豊富な写真と共に進行順に従い詳細なレポートに致しました。
扇畑実行委員長の開会の辞に続き、川原会長の挨拶—今回で15回目の開催を迎え、継続の力担った会員の熱意と実行委員の綿密な実行力のお陰である事、奏者として原 亜緒衣(はら あおい)さんをお迎えしていること、そして遠方から出席の会員をねぎらい、今回北九州から初参加の佐藤良矩氏を紹介した。
(1) 持寄り楽器の試奏とこだわりを聞く 13:20~ 進行=前島委員
本来チャートグラフによるキャラクター差を実器で検証するつもりでしたが、持ち寄った楽器の半数が展示会出品ではなかったのでこの項目は中止し、
チャートグラフ、データ表は参考資料として配布のみとした。後日全会員に配布。
楽器台数6台
試奏は各弦の半音階スケール +共通曲(バッハ・シャコンヌ)+楽曲数曲から選択。 質疑に応じた音出しは随時奏者が対応した。
1 上田氏: 表板にはっきりしたハーゼがあり気に入っている。
製作上のこだわりは特にないが手順はきちんと守る。低音がビオラっぽいと言われた。
道具にはこだわりを持ち、使い易いように自作も行う。
試奏の結果:音色バランスはまとまっており標準的だ。懸念した低域はやや膨らみがちでクリアーではなかったが調整の余地は十分にある。
2 石川氏: 展示会では音質、音色に不満であった。音量を上げようと表板を低めに設計したが狙いどおりにはいかなかった。調整はしたが如何なものか?
試奏の結果:弓のプレスをしっかりすれば音量に不足はない。明るくストレートに仕上がった。 調整の効果あり、指板下がりが大きく奏者に負担がある。
3 犬塚氏: 2009作。プロ奏者から音が出にくいと言われ、今年削り直した。
どこをタップしても同じ音が出るよう にした。
ネックの曲がりを直し、ニスも塗り直した結果、低音の響きが改善された。
表広範に3.0 裏中心4.5 周辺2.5。試奏の結果:G線域がよく鳴っている。DAEは弾き込むと良くなるはず。
4 星氏: 2015製 いつも弾き易さに注意している。音量があってオケの中で弾けるものを年2台位は作りたい。
今迄の楽器も手を入れていじってみたい。ネック下がりが大きく反省している。
試奏の結果:ハイポジで音量小さい。バランス、反応は悪くない。
G線はしっかりしているが、音を整えるのに工夫が要る。しっかりした弓を使いたい。
5 簗瀬氏:こだわりは余りない。この楽器を持って来るにあたり、音が出てないように感じたので半日掛かって調整した。
駒を調整、弦高低くし、魂柱位置を調整した。塗装では冬目を有効に残そうと工夫、アルコールニスに プロポリスを混ぜ柔らか目にし、
15~20層徐々にプロポリスを減じている。でも厚過ぎたかなと思う。
試奏の結果:音色はダークで籠った感じであるが、かえって渋い音に変わったようだ。
奏者から「弦と弓の間で反発感がある。」エヴァピラッツイが強すぎるのかも。
6 倉島氏:2003作 ガルネリクライスラー型。
クライスラーの歪みを直してラインを引いた。ニスがひび割れていたのを直した。
駒・魂柱を取り替えて調整終わったばかりのもの。最近細かい所が雑になってきたので古いものを持ってきた。
試奏の結果:とても落ち着いた良い音である。音が出たあとに響きが残っている感じがするのが素晴らしい。余韻が音色を作っている。
会員から:楽器屋さんのものと比べてどうか?
奏者から:ランクにもよるが音はいい勝負と感じる。一つ一つの音が「良い楽器」の音をしている。
奏者原さんの試奏は大変丁寧に各楽器のキャラクターを引き出し楽器毎の 違いが良く分かった。
そのため会員との疎通ができ内容を深める事が出来た。
最後に会員の要望で原氏の楽器を聴かせてもらった。 (バッカーリ1982伊)
(2) ショーカードを参考に ボディの厚みとその音色を探る
残念ながら今回の楽器では中央部の厚みに大きな差が見られなかったので急遽取りやめにし、その分を試奏に充てる事が出来た。
ショーカードによる集計では表裏ともに低めに設計しているようでその差も2mm以内であった。
音量では有利ではあろうが音色に関しては多様性が失われてしまうように思える。
表16、うら17mm位で鳴ってくれればと思いますがいかがでしょうか。(前島)
休憩 14:45~
(3) 提示課題 [バイオリン音響学の基本要素の認識]14:55~ 解説=前島委員
少し旧い著作物ですが安藤由典氏[楽器の音色を探る]より[バイオリンの秘密]章25頁を10頁に編集して テキス トに採用、
この章の主旨である聴感(きこえ)との一致を伴うことが研究の正しい方向性であること、
導きだされた良い音のスペクトルを如何に製作に反映させるかの研究が熱心に行われているので、決して秘密の 楽器ではなく、
小さな技術の積み重ねの上に少しづつ結実してゆくであろうこと。
現実目の前にあるものの再現が今の時点で未完成であることの理由を改めて認識した。
テキスト中にはグラフ や図表が多くあり、拡大判を貼り出しテキス ト文章と読み合わせて解説した。
重要な部分はこれに傍線を施してみた。
タッピングでの3分の1オクターブスペクトルに現れる周波数特性の凹凸が楽器の癖や音色に大きく影響し、
なお、聴こえの良い楽器の典型パターンも図示され 、1250ヘルツを中心とする帯域と3150ヘルツ付近に大きな 山が現れることが示されている。
木材(えぞまつ)の経年による振動損失特性が200年以上の材が新材比で最高3分の1まで下がり、しかも 1000~2000ヘルツ付近である事から上記を裏付け、
名器がこの特性を備えているのだろうと推測される。
弦楽器の饗版としての物理的要素=振動損失が小さい、弾性が大きい、軽い、が重要であること。
新作で名器の音がなかなか再現出来ていない、又は困難な理由の1つになるのかもしれない。
研究製作に有用なあるいは無用な試行錯誤を気づかせるに十分な記載内容であるが時間の都合もあり質疑応 答まで届かず、かなり大雑把になってしまった嫌いがあり惜しい気がする。
(4) 質疑応答 進行=南委員
Q石川氏:透明ニスを自作しているが、茶色又は黒ずんでくる。良い方法は?A高倉氏:シェラックを使うがいろいろありホワイトシェラックは余り良くないシェラックサンブリーチがよい。
サンダラックなどは古いと溶けにくいので回転の良い店から買っている。
会員各氏:オイルニスは家庭では危険があるのでアルコールのみでやっている。
Q小嶋氏:ペグ穴とペグがなかなか合わない。皆さんはどうやって?A 会員各氏:・リーマーをシェーパーに突っ込み、刃の向きをあわせるとよい
・小さい方の穴にペグ先端を合わせ 太い側は当たっている部分をヤスリで細かく何度か落とし、最後は紙ヤスリで丸を整える。
・材質によっては丸く仕上げ難いものもある
(5) 材料部品交換会 引き続きビアーブレーク 16:05~
出品者と出品物
佐藤(康) 氏
Vn、Va用 駒 指板 未成形駒 多数
百瀬 氏
丸太取り表板数点。氏は長年同材から作っており十分に枯れている良い材とのこと。
増毛 氏
ガラススポイト多数配布—溶剤の添加や膠への注水などに便利とのこと。
前島 氏
[手づくりのすすめ]の一環で楓や黒檀の端材で作ったミニスコヤ手のひらサイズの パフリングカッタービオラ用テルピース。良質割り材の魂柱Vn Va用など7点
上田 氏
自作のパフリングカッター2枚刃つき他自作工具を紹介した。
この他増毛氏から新設の製作学校(伊)の紹介パンフ 代官山音楽院高倉氏から弓製作セミナーの案内があった。B・B つまみとビールを片手に交換販売と楽器製作談義に会話が弾みました。














