【オイルニスの風景】 文:小嶋 正三

オイルニスの風景

コロナ感染騒ぎより、弦楽器フェアが中止となり、秋の研究会(会員限定)も中止となった。そのため、ZOOMによる研究会に変えたが、こういう方式に慣れた人が少なく、ごく一部の人と役員だけとなり、開催する意義もなくなってしまった。

本来ならば、研究会で扱うテーマだと思うが、この辺の知識を持つ会員の退会もあり、寄稿という形でまとめておこうと考え、投稿することにする。

かなり、個人のノウハウに属するテーマでもあり、あまりおおっぴらにすることは好まない。

この寄稿を見てくれた人に対するプレゼントである。

目次

ニス(ストラディバリウス)に興味をもったきっかけ

私自身のことをいうと、このニスに関して非常に「運」のよい立場にいると思っている。なぜなら本来、生まれた時点では私には音楽に関する才能はなかった。四柱推命などで見ると、私にあるのは、祖霊を祭る宗教に関係したアケルナルという星である。それも2つある。美術に関係した星もあったのだろう。小学校を卒業する際、レオナルド・ダ・ビンチのような画家になりたいと書いた記憶がある。音楽の授業があったのは、中学までで、レコード鑑賞は好きだった。高校からは選択制で美術を選んだので、音楽からは離れてしまった。大学では美術部だった。


ところが、宗教遍歴をして、ある団体に属したことにより、運命が変わっていく。確か南米で行われた遠隔で、ホロスコープ改善の修法に参加した。その時に音楽の星を授かったのだと思う。その後、安いバイオリンを購入して、ヤマハ音楽教室で習い始めた。いろいろバイオリン関係の書籍を購入して、読むうち、名器ストラディバリウスの音の秘密はどうもそのニスにあるらしい事。それらはまだ、解明されておらないという事が書いてあった。つまり、プロもアマチュアもその点では同じ地点
だという事になる。それでそれらを解明したバイオリンを製作して、演奏したいと思った。それで60歳で退職後、東京の代官山音楽院の日曜クラスに入学して、高倉主任講師より、製作を習い始めた。インターネットでも、ニスに関する情報を暇さえあれば、探していた。

油絵をやっていたので、オイルニスと極めて関連性がある。これが運のよい点である。さらに私が名古屋に在住していたことである。なぜか?名古屋は楽器店「シャコンヌ」の本社のある地域である。ストラディバリウスのニスを解明したと豪語する窪田社長のいるところである。そこで何回もそのニスに関する講演会を聞くことが出来た。

もう一つは日本バイオリン製作研究会の先輩で、知る人ぞしるストラディバリウスのニスの研究家のK氏の知遇を得たことである。私が代官山音楽院を辞め、その年の会の展示会に出品し、夜の懇親会で仲良くなり、彼の自宅を訪問して様々な知識を得ることになる。その後、退会されているので、その機会がなければ永遠に訪問する機会がなかったことになる。

オイルニスの風景で述べる内容について

今までは、前書きにすぎぬので、これから記述しようと考えている項目を述べておこう。

1.過去に出版された入手しやすい本に出てくるニスの推察
2.ある研究家について
3.ストラディバリウスのニス(三人の紹介)
4.近代に発明されたニス
5.会員のトライ・研究
6.オイルニス使用にあたっての注意点
7.インターネットで発表されているニスの秘密(米国編)(欧州編)
8.日本で入手しやすいニス販売場所

付録:主に使用されているニス成分の解説

かなりのヴォリュームになると思うが、出典は紹介していこうと考えている。そうでないと絵にかいた餅になっ
てしまうので。

但し、そのレシピは各自、作成していただきたい。無限のレシピが考えられ、その作成もひとつの楽しみだろうから。

オイルニスの風景-過去に出版された入手しやすい本に出てくるニスの推察

「魔のバイオリン」 佐々木庸一著 音楽の友社

イタリアのニスの配合は製作者の間で秘密にされていたらしく、その処方箋も残っていない。

1550年頃から1745年頃までの約200年間に作られたイタリアの名器は。各楽器の色やニスの厚さは違っても、何れも燃え上がるようなすばらしい独特の輝きをもっている。そういうことから、これらの名器のニスの基本になる成分には、何か共通のものがあったと推測されている。そしてその基本的成分が、その後失われてしまったため、1760年頃以降に作られた楽器には、クレモナの名器のような輝きがないと考えられるようになった。

ではその基本的成分は何であったのかという問題だが、これまた最初に述べたバルサム樹脂だろうという意見が支配的である。この木は百年以上もの長い間、樹脂をとられたため枯死してしまったと考えられている。

この木は建築用材としては、あまり役に立たなかったため、その後植林されなかった。そして1750年頃に完全に地上から姿を消してしまったのだ、と推測されている。

次にニスの色についてであるが、ニスを塗る前に着色したのか、それともニスそのものに着色したのか、ということもはっきりわかっていない。

ただ、現在同様、名工たちが当時着色についていろいろな実験をやったことだけは確かのようである。

イギリスの蒐集家でヴァイオリンの研究家チャールズ・リード(この人は「スペインのストラディヴァリ」を書いて有名になった人である)はクレモナのニスのニスについてこう書いている。

「クレモナのニスは、二つのまったく違うニスから成り立っている。まず最初に木の穴を埋めるニス塗られ、それからその上にたいていは透明のニスを3回塗っている。4回塗っているのは稀にしかない。これらのニスは油ニスで、その上に仕上げとして、アルコールで溶かしたきれいな透明なニス、特にゴムニスを塗っている。」

バイオリン製作 今と昔 ヘロン・アレン著 尾久れも奈訳 文京楽器発行

3部に分かれて、発行されているが、その第1部第5章にニス(THE VARNISH)がある。

1.失われた「クレモナ・ニス」の秘密

当時から、多くのバイオリン製作者が必死でニスの秘密を探り、たくさんの科学者が日夜このニスについて研究してきた。

現代でさえ、一度ならず大きな期待が寄せられ、しかし、いつも失敗に終わるのである。「しめた、わかった!」と公衆の前で叫んだ者も何人かあったが、実際のストラディバリと比較してみると、結局はとても及びもつかない失敗作であった。熱心だった研究者たちも、やがて絶望し、クレモナ・バイオリンのニスは、ついに失われた芸術として諦められるに至った。

ここで、リード(Charles Reade)氏が、1872年8月31日に「Pall Mall Gazette」に載せた手紙をできるだけ原文どうりに引用しながら、今までに判っている事柄を簡単に述べてみよう。


 (1)ベースはこはく(琥珀)で、当時のイタリア人が透明度を損なうことなくこはくを溶かす方法を知っていたという説。乾燥熱で一度溶かし、油とテレピン油を混ぜて煮沸すると、透明で持続性のある色合いのニスとなる。

(2)ストラディバリのバイオリンも、当初は未熟でそのニスもかなり不透明であって、今のこのような状態はすべて時のなしたわざであるという説。

(3)それはアルコール・ニスであったと主張する勇気ある人もいて、ニスは溶けるだろうと主張する。

(4)最も支持されている意見は油ニスであるというである。
(5)混ぜ物をしたことによって、その秘密は失なわれてしまったとする説。
(6)当時のクレモナやベニスの職人たちは、純粋で特別の、現在は入手できない類の樹脂を使っていたとする説などもある。

そもそもこはく論について言うと、曖昧な言葉の使い方に端を発したというのが本当のところだろう。

アマティのニスは、その豊かな色を称して”こはくのような”と言われた。それを受けて(1)の説の推論者は、たとえこはくをうまく溶かしたとしても。こはく独特の色合いを出すためには1センチは塗らなければならないということを忘れて、こはくが塗られていると言ったのだ。
(2)(3)(4)(5)の理論は、それ自体事実を含んでいるが、欠点は、真実を見極める目があまりにも狭すぎ、しかもしかも盲目的すぎることである。

2.クレモナのニスの作り方

著者はこの方法で、ストラディバリの暗赤色のニスに、すべてのクレモナ製バイオリンのニスの秘密を解くカギを見つけた。
暗赤色のニスを落とした、いわゆる”ホワイト”の部分をよく見よう。これは決して単純な白木の状態ではないのだ。

木は、時が過つと、くすんだやや汚い茶色に変色するが、ストラディバリのそれは、豊かな美しい黄色である。つまり、この目を信じれば、それは素晴しく塗られた白木であることがわかる。それは油性で樹脂を含んでいる。

油の、木の中に染み込む性質を考え合わせると、”油ニスの4層”とでも言うべきで、この状態まで行って、彼らは白木と呼ぶ。
これである種の透明で、色のうすい樹脂を含んだ透明ニスを白木に塗るという第1過程を発見した。

さて次に、赤いニスのかけらは何であろう。
同質だが、色の違うニスなのか、異質のものなのか。
ここにひび割れていないニスがあり、その上に細かくひび割れた別の赤いニスがある。2つが同種であれば、必ずその2つには化学的類似性が認められるはずだ。
先の赤いニスに爪を立てれば、ひび割れの部分はすぐにはがれるであろう。油ニスの上に油ニスをのせた場合には、決して起こりえない現象である。油の上に油を重ねた場合は、両方がしっかり粘着しているのである。

別の角度から観察してみよう。ニスにおいては、油は色を薄める働きをするので、油性ニスで先の上側の赤いニスほど完全な色をつけることは人間技では不可能に近い。下地の透明ニスが木の孔を埋めてしまっているので、希薄液は木の内部に染み込んでいくことも、色を薄めることもできない。
もし、ストラディバリの赤いニスが仮に油性ニスだとすると、油のすべての部分はそのままそこになければならない。しかし、上側の赤い層の薄膜の極端な薄さを考えると、それは不可能である。
それでは彼はどのようにしてニスを塗ったかということになる。推論の結論はこうだ。

まず、ある樹脂を含んだ3~4層の油性ニスから始めた。その後、良質のアルコール性で混ぜ物のない純粋樹脂で作った数層の赤いニスを塗った。アルコールは蒸発して、純粋樹脂が豊かな最初の油性ニスの上に残る。そこで、アルコールの”乾燥性”(揮発性)と、下塗りとの”異質性”とのために、彼の赤いニスは細かく砕けるのだ。
この過程は、ほとんどすべての、クレモナ製のバイオリンのニスにあてはまる。このニスの美しさは、純粋な油性ニスの上に、まるで金属の箔のように、アルコールの蒸発によって純粋な薄膜(フィルム)として残されるところにある。最初の無色の油性ニスは木の中に染み込み、木目を浮かび上がらせ、上塗りのニスは異質のアルコール・ニスで、光と影によって素晴らしい色を見せる。
ラックニスは、40年このかた、非常によく用いられたが、ナポリやピアツェンツアで、その火打石のように堅い樹脂はニスを台無しにしてしまった。ラックニスは摺り減らないし、砕けない。このことはクレモナニスと正反対である。致命的失敗を犯さないためには、この類のニスを使用してはならない。

クレモナ・バイオリンの深い赤色のニスは、純粋な竜の血の色である。一滴の竜の血(dragon’s blood)は、紅水晶よりも深く、クリスタルほども澄んでいて、ルビーと同じくらい燃え立つ色である。
黄色のニスは、別の樹脂しおう(gamboge)で、竜の血と同じように固まりで市販されている。
グァルネリとストラディバリのオレンジ色のニスは、この2種を単に混ぜたにすぎない。(以上、前期C・リードの推論より)

(小嶋注:アルコールニスは黄金期のクレモナ・バイオリン後に出てきたので、ストラディバリのニスに使用されたというのは、間違っている。)

引用が長くなったが、ニスの構成成分は、いったい何だったのだろう。
今見ているそのニスが、既に200年もの年月を経てきたという事実をしっかりと頭におかねばならない。
その200年間は樹脂を酸化させ、松やにを酸化させ、細心の検査や分析作業を不可能にさせるほどに希薄体をも酸化させてしまっているのだ。クレモナの黄金期のニスは、ほんの1550年頃から1750年頃まで存在しただけで、末期には、現れた時と同様に超然と消えてしまった。その頃、入れ替わるように新しくアルコールニスやラックニスが出現したのである。

当時の状況をわずかに覗わせる幾つかの印刷物がある。これは様々な目的のための、一般的なニスについての資料である。しかし、ここに述べられている樹脂や溶剤の名称が変わったり、既に完全に入手不可能なものがあるなど、難しい点が多い。だが、次にこれらの昔の仮綴じ本に列挙されている最もあり得そうな原則をいくつか要約してみよう。


といろいろなレシピが紹介されている。たまたま、それが次のところに紹介されていたので、掲げる。

https://note.com/varnish/n/nbfb75d4bbfc3

ヴァイオリンの名器 フランツ・ファルガ著 佐々木庸一訳 音楽の友社

イタリア・ニスの秘密

この項では、昔から熱心に論議されてきたイタリア・ニスについて、詳しく述べるとしよう。
イタリア・ニスの謎はけっして完全には解かれないであろう。すでに述べたようにヴィヨームは、イタリア・ニスに比較的近い非常に美しいニスの調合に成功している。それで、ヴィヨームはタリシオの遺産の中から、昔の巨匠たちの製図や略図と一緒に、イタリア・ニスの配合に関する書類も発見したと言っている人が多い。


ヴァイオリンの専門家を長い間悩まして来たもう一つの謎がある。それは、一体ニスがヴァイオリンの音に、特別の影響を与えるものだろうかということである。
クレモナの楽器の場合は、確かにニスが音に重大な影響を与えているようである。というのは、クレモナの楽器は、全部音が違うからである。昔はニスの調合は外部には秘密にされ、弟子にだけ口伝されたようである。色の違いは染料の違いによるのであった。
ヴィヨームはクレモナの巨匠たちの優れた模造品を数多く作った。彼はそれらの楽器に全く同じニスを塗っている。そして、これらの楽器はいずれも全く同じ音が出るのである。この事実から、多くの専門家は、音の違いは、材料の木と製作者の腕に左右されると主張している。そして、ニスは木を長持ちされ、楽器の外見をよくし、音を十分に響かせるためのものにすぎないと言っている。
 

これはともかくとして、イタリア・ニスの配合法は、1760年頃にすでに分からなくなっている。
そしてそれに等しいほのおのような、いきいきとした光輝を発するニスを作ろうとして、あらゆる努力がなされてきたが、みな失敗している。これは恐らく、昔の巨匠が用いた樹脂や染料と全く同じものが手に入らないためであろう。
昔の巨匠は、ルネッサンスの偉大な画家たちが絵具を自分で作ったと同じように、自然の産物だけを用いて、自分でニスを配合したのである。当時自然から得た原料は、現在では科学的に合成され、自然の産物でも市販される前に精製されているため、ある種の重要な役割を果たしたであろうと思われる成分が失われてしまっている。

また原料によっては、現在全く手に入らないものもある。たとえば、上部バルサム樹の樹脂である。この木は死滅してしまい、その後造林の努力が種々なされたが、いずれも失敗している。イタリア・ニスの謎を解く鍵は、案外この樹脂にあるのかもしれない。またニスの乾燥に適しているイタリアの気候も、重要な役割を果たしていたことも確かである。

イタリアの巨匠たちは、油ニスだけを使ったのであろうか。このこともいろいろ論議されているが、いまだにはっきりしていない。有名なヴァイオリン研究家、チャールズ・リードはクレモナの名匠たちはニスを何度も塗ったと主張している。つまり、最初にニスを薄く塗って、木の小さな気孔を塞ぎ、次に透明なごく薄い油ニスを二回か三回塗り、これが完全に乾くと、最後に透明できれいなニスをアルコ-ルで溶いて、適当な染料を混ぜて塗ったのだというのである。


しかし、人々はしばらくの間、クレモナのニスの謎を解く希望を捨てなかった。ジャコモ・ストラディヴァリという、巨匠の最後の直系の子孫が十九世紀の終り頃、一介の役員としてクレモナに住んでいた。
そして当時彼はクレモナのニスの処方をもっていると言われていた。ある時、ミラノのマンデリという科学者が、彼に手紙をやって、処方の写しを送ってくれるよう頼んだことがあったが、これは拒絶されている。マンデリは1903年にミラノで出版した「アントニオ・ストラディヴァリの新研究」の中で、次のようなジャコモの返事を発表している。

あなたの御要求に答えることは、残念ながらできません。この秘密は妻や、娘にさえ知らせておりません。この貴重な処方を、誰にも知らしてはならないという若い時からの私の決心を、変えるわけにはいかないのです。

私の甥の一人が、偉大な祖先の職業を継いだならば、その時には、この秘密は甥にだけ知らされるでしょう。以前にも、おなたのようなことを言ってきた人ががありましたが、むろん私ははっきり断っております。私は志願兵として、ガルバルディ将軍のすべてのすべての作戦に参加しました。そして戦争が終わってから、1848年にトゥーリンに住みました。当時のオーストリア政府にとっては、私は亡命者でありました。そして故郷の誰からも援助を受けることはできませんでした。それで、生活の糧を得るために、余儀なく市役所に書記として勤めました。

当時、イタリアで古い楽器を探していた、あるフランス人にーこの人とはビオンバ書店で知り合いになったのですがーニスの配合法を25ルイドールで教えてくれと言われたことがあります。私はむろん断りましたが、今度は金額を倍にしてきました。50ルイドールという金は、当時の私にとってはぜひとも必要なものだったのですが、その時私は誘惑に負けないだけの勇気をまだ持っていました。

それから数年後には、ヴィヨーム氏とカステルパルコ伯が、それ以上の金で私を誘惑しようとしましたが、それも同様に断りました。私のした事が正しかったかどうかは、自分には分かりません。ただ、今でもそれを後悔していないことだけは確かです。


その当時、ストラディヴァリに関する本を書いていたロンドンのヒル兄弟も、ジャコモ・ストラディヴァリと文通している。ヒル兄弟は、ジャコモが配合法を書いた紙を故意に破棄してしまったことを聞き知り、どうしてそういうことをしたかをたずねている。それに対して、ヒル兄弟は次のような返事をもらっている。

「父親が亡くなった時、私はまだ子供でした。父が死んで数年たってから、私たちはパドゥアに移住しました。その頃のある時、家にあった本を見ていると、その中の古い聖書が特に私の注意を惹いたので、この聖書の中を知らべてみました。すると、表紙の裏側に1740年の日付けの入った、かなり長い文が書いてありました。私は、私の家族の人たちが曾祖父のことや、彼のニスのことを褒めているのを何度も聞いてありましたので、もしやと思って、よく読んでみたところ、それは、失くなったと思われたニスの配合だったではありませんか。私はこの聖書を、自分のものにすることをその時に決心したのです。そして誰にも、母親にさえもそれ知らせまいと決心したのです。そして大きな聖書をかくすことができなかったので、書いてあった配合法を一字残らず正確に写し取って聖書を破棄してしまったのです。」

小嶋注):1740年は間違いで、1704年だと思われる。ヒルの本では、1704年と書いある。ストラディヴァリは1737年死。


ヒル兄弟はその後、ジャコモ・ストラディヴァリにしばしば逢っているが、遂にニスの配合法を聞き出すことはできなかった。ヒル兄弟は、その著書の中で、「われわれはストラディヴァリ氏に数回会って話をしたが、彼は非常に立派な人で、作り事をいうような人ではない」といっている。

こういう風にストラディヴァリのニスの秘密は、今のところまだ公表されていないが、処方箋は確かにあるのである。ストラディヴァリの子孫が将来、それによってもう一度ストラディヴァリ・ヴァイオリンを作り得るかどうかは別問題である。毎年必ずどこかで、ストディヴァリのニスの謎を解いたというニュースが報じられているのをみても、いかに人々がそれに関心を持っているかが分かるであろう。

しかし、それらはみな売名を目的とするヴァイオリン製作者の宣伝にすぎない。真面目な製作家は、みなこの謎の解明は簡単にできないことを認めている。

現在では、揮発性の油を使って、種々の固さの樹脂から作ったニスが一番理想的なものだと一般に言われている。

しかし、このニスの唯一の欠点は、乾が遅すぎることにある。それで、油ニスの代わりにアルコールを含んでいる乾きの速いラックニスが塗られるようになった。しかし、このラックニスも非常に固くなって、楽器の音を悪くする欠点をもっている。振動する物体が固ければ固いほど、それは無数の非常に小さい振動数に分かれる傾向が強くなる。

(調査によると、この倍音は1秒間に1万から1万5千振動することが判明している。)

この小さい振動音は、非常にゆっくり振動する調和倍音を、いわば麻痺させてしまう。つまり、この小さな振動が調和倍音を食ってしまうのである。その結果、音は非常に鋭くなり、またよく通らなくなるのである。
音がよく通らなくなるのは、こういう小さい振動のエネルギーが長く続かないためである。
パリのマルタンは、1762年に非常に乾きの早いニスを発見した。彼は、ほとんど水のように見える精製したセルラックを用いた。このニスは次第に一般に用いられるようになったが、しかし、このニスを塗ったヴァイオリンは、イタリア派のヴァイオリンのようにいい音は出ない。その百年後にE・マイランドというパリの化学者が、このニスの使用を攻撃した一文を発表して有名になった。彼はその時同時に、まんねんろう油で溶いた、極めて柔らかい樹脂を含んでいるニスの配合法を発表した。しかし、このニスを塗ったヴァイオリンは、5年たってもなおべとべとしていて、演奏不可能なことが、経験によって判明した。

ニスの衰微はすでに1750年に始まっている。短い間にできるだけ多くの楽器を作り、儲けを多くしようとして、一般にはもっぱらアルコール・ニスが用いられるようになった。そして、アルコール・ニスが良くないということが分かって来た時には、既に手遅れであった。古いイタリア・ニスの配合法が、その時には消滅してしまっていたからである。
最近では、良い楽器には再び揮発性の油ニスを塗るようになってきている。このニスに用いられるテレピン油と、ラワンデル油は完全に蒸発しないで、溶解された樹脂と結合し、亜麻仁油が加えられて、十分な固さをもつのである。以前に特にミッテンバルトで使われた明るい琥珀ニスは、現在ではもはや使われていない。


ニスを塗る普通の過程を示すと、はじめに、木酢、加里、くるみの殻などを使ってヴァイオリンを褐色にする。それから、白いシェラックとマスティクのような白い樹脂と混ぜたものを普通は三回塗る。
もっと高価な楽器の場合は、この他に軽石や油で磨きをかける。

この地塗りの次には、染料ニスが塗られる。赤には竜血樹の樹脂、ゴム樹脂、紫壇材の樹脂が使われる。黄色には、ガムボージ、姜黄を使い、褐色には盧会、カテキュを使っている。これはいずれも非常に薄く何回も塗られる。時には八回も塗ることがある。これが乾いてから、最後に光沢を出すニスを塗る。これには普通、オレンジ・シェラックにサンダラック、テルペンチン、ないしはマスチックを必要なだけ混ぜて使っている。

近代の名器は、ニスに関しては、クレモナの名器の水準には達していることは認めねばならない。

しかし、これらの楽器は、古い名器のような、充実した甘い、そして浸透力のある音が出ない。結局はニスが悪いということになり、クレモナの名器がいい音を出すのは、やはりニスのせいだと考えられるようになった。この考え方は、恐らく間違っているかもしれない。しかし、大部分の名ヴァイオリストは、そういう考えを持っていて、それを変えようとはしていない。

ニューヨークのヴァイオリン職人 ジョン・マーケーゼイ著 中島伸子訳 白揚社発行

この本はバイオリン職人ーサム・ジグムントーヴィチの製作過程に立ち会い、一部始終を見守った内容を記したものである。

サムは現在活動しているヴァイオリン製作者の中で一番優秀で成功している職人の一人だという点については、ほとんど異論はなかった。アイザック・スターンーこの有名な独奏者が用著名な楽器を丁寧に複製できるという評判を得つつあったジグムントーヴィッチという若い新進の楽器職人のことを耳にして、自身所有のグァルネリ・デス・ジェス「バネッテ」の複製(コピー)を依頼した。
それが出来上がると、スターンは友人とのリハーサルにその新しい楽器を持ってきて、それがコピーだと言わずに演奏した。そこにはヨーヨー・マもいたのだが、この高名な老ヴァイオリニストが自ら言い出すまで、彼が演奏しているのがいつもの偉大なオールド・ヴァイオリンではないことに誰ひとり気づかなかった。その後すぐに、マエストロ・スターンは、自分のもうひとつの偉大なグァルネリである「イザイ」のコピーをサムに作らせた。噂はたちまち広がり、サムの評判は上がった。

なお、日本で開催されている「弦楽器フェア」の講演者として、招待されたが、(発表もされていた)が、残念ながら都合により、実現されなかった。

彼は13歳の時、図書館で見つけた一番大切な本は「ヴァイオリン製作 今と昔」という素敵な古い本だった。今のヴァイオリン製作者のなかには、この本に影響された人がたくさんいると思うと述べている。のちにこの本のどこにそんなに影響されたのか尋ねてみると、サムはこう答えた。

「ヴァイオリン製作がロマンチックに思えた処さ」

ニスと非常に興味深い秘密

 「ここに並んでいるのは、どれもいろいろなときに作ったもので、成分も少しずつ違う。どれが何なのかを知るのに必要な表がどこにあるのかさえもよくわからない。だから、正確な成分が何か、もうわからないんだ。でも、大きな違いはない。基本的に、ベースになっているのは、マツから採れる成分だ。マツからテレピン油を作る。そして、ロジンも採れる。この二つから、いろんなものが作れる」とサムは言った。

彼は93と書かれた瓶を取り上げ、何も書かれていない別の瓶も手にとった。どちらにも、メープルシロップにちょっと似た、ねっとりしたものが入っていた。

「この二つは元は同じものだったけど、ひとつはけっこう長い間煮たんだ。<溶剤>と呼んでいるものなんだが、長く煮たほうが色が濃いのがわかるだろ?」

彼は窓から差し込む弱々しい灰色の光に向けて、瓶を差し上げ、言った。

「どろっとしているのに、すごく透き通っていて。すごくきれいで、すごく輝いている。」

それでは、これがすべてのヴァイオリン職人が使っているようなニスなのか、と私は尋ねた。すると、私がこれから見るのは、ニス塗りの三段階プロセスの一番目だということがわかった。素人がヴァイオリンのニスといって思い浮かべるものは、実際には、下地と呼ばれる、木材にしみこむ第一の層、浸透を許さない第二の層、実際のニスの第三の層からなる。

私がほとんどの人と同じように、ニス塗りのプロセスにこういうステップがあることに知らないのに気づくと、サムは瓶を置いて、しばらく黙った。考えをまとめている様子だった。「下地のことを一通り話さなくちゃならないな」と彼は話し始めた。

「下地はいちばん論議の的になっているし、外面上でも音の面でもいちばん重要な要素だと思う。つやを出すことについては、もう木材にいくつか処理をしてあるんだ。表面はちょっとだけ自然酸化している。少し色づけるために、自然の顔料を塗ってある。今、このヴァイオリンは、まあ、下準備が済んだキャンバスのようなものだ。そこに最初に塗られるのが、何であれ、それは木材にしみこむ。だから、それをうまくやるのがひとつの重要なポイントになる。」

またもや、自分はあまりしゃべらないで耳を傾けるのが賢明なときが来た、と思った。
 

「まず理解しなければならないのは」とサムは続けた。「ニスにまつわる謎に何かしら意味があるとすれば、実際にはストラドもグァルネリも含めた多くのオールド・ヴァイオリンには、普通ぼくらがニスと呼ぶようなものは、まったく残っていないということだ。ほとんどの場合、オールド・ヴァイオリンのニスはなくなっている。こすれ落ち、薄くなっている。だから、もしちゃんとしたニスが音とおおいに関係があるのなら、くたびれたヴァイオリンはよい音がしない、ということになる。ニスがあまり残っていないからだ。

だが、実際は違う。ニスがはげ落ちてしまったら、裸の木材が見えてくるはずだと思うだろう。だが、実際に目にすることになるのは、すはらしい深みのある、炎のようなー色なんだ。だから、木材に浸透し、簡単に落ちない何かがそこにはある。それこそが、下地についてぼくが知っているいんばん重要なポイントだ。下地は木材に浸透する。よい楽器には、光のなかで回してみると輝くという特質がある。木材が光を反射し、またすごく屈折させるんだ。うまくいけば、拡大鏡のように木を透かして見ることができて、まるでなかに電球が入っているみたいに見える。そういう様子がぼくは好きなんだ。」

サムはテーブルの向こうに手を伸ばして、琥珀色のワックスのように見えるものがいっぱいに入った瓶をつかんだ。そして、ひねってふたを開け、私の鼻先に突き付けた。嗅いでみると、ほんのり花の香りがした。

「いいにおいだろう。プロポリスだよ。蜜蜂が巣の隙間を埋めるのに使うものさ。養蜂業者は巣を掃除する時、それを捨ててしまう。サッコーニはこれを普及させた。ぼくも以前は使っていた。このべたべたしたものを手に入れて、アルコールに浸す。そうすると、蜜蝋とゴミがたくさん底に沈むので、その上澄みをすくうと、このとても純粋な物質が取れるんだ。きれいな色だよね。これは素晴らしい下地になった。だけど実は乾くのがとても遅くて、本当にパリッとした感じにはならないと思うんだ。だからもうこれは使ってない」と彼は言った。

「今、ドイツのミッテンバルトでは、楽器全体に純粋な亜麻仁油を塗り、しみこませる。たっぷりとね!それから吊るして、だいたい一年ぐらい置いておくのが彼らのお勧めだ。見事な、すごくきれいな仕上がりになる。そして保護作用があるんだ。
だが、亜麻仁油の特徴のひとつは、革のように堅く乾くことだ。だから、使う側からすれば、それはいい。ヴァイオリンに直接汗がついても、何も傷つかない。だが、響きをよくするという意味では、正反対の作用がある。音を弱めてしまうんだ。そのヴァイオリンは甘美な音を奏でるかもしれないが、あの胸をかきむしるような音は少しばかり欠けてしまう」

ドラッガーのヴァイオリンを戻すためにライトボックスに再び手を入れたときにも、サムは話し続けた。恩師ルネ・モレルは、アメリカで生活し始めたころの話をサムに語ってくれた。マンハッタンの42丁目にある有名なウーリッツァー社の修復・修理工房でサッコーニのもとで働いていたとき、他の職人たちは夜には自分のニスを隠して、同僚に秘密を発見されないようにしていたそうだ。モレルのもとにいた時期に、サムはモレルとニス塗りについておおいに議論した。モレルは下地の最高の性質について、そしてそれがどんな働きをしなければならないかということについて話した。彼は自分が完璧な「ソース」と考えているものをパっと作った。そこで意見交換は終わりだった。モレルはその中に何が入っているか、正確にサムに教えることを拒んだ。

「僕がここでやっていることは、ルネに着想を得たものだと思う」と、サムは自分で作った「ソース」を探してテーブルまわりを手で探りながら意った。だんだんいらだってきて、瓶をいくつもどかせたり戻したりしていたが、ようやく見つけた。「なんだ、ずっと目の前にあったのか」と言って、彼は瓶を持ち上げた。私はチャンスとばかりに彼の長広舌をさえぎって、そのソースの中味が何なのか尋ねた。そして、モレルの伝統にのっとり、また何世紀にもわたる伝統にものっとって、サムは答えるのを拒否した。

とうとうサムは、この議論をそれ以上続けるつもりがないことを示すために言った。「これはちょうど、よい奇術師が絶対にトリックをすべて明かさないのと同じことさ」

これだけは報告できる。彼が使っていたソースの瓶には、13Bミディアム・ダークというラベルが貼られていた。サムは13Bミディアム・ダークを布に付けて、未完成のドラッカーのヴァイオリンにこすりつけた。最初はごく軽くこすって、色の薄い層を作っただけだった。

 「この木はかなりおもしろい」と、ふと彼は言った。「彫っている時には柔らかくて、色が付き過ぎるんじゃないかと心配になった。だけどそんなことはまったくなかった。もっと強くこすっても大丈夫だろう。とくに吸収性が高いわけではないからね。」結局、彼はブラシに切り替えた。それは短く黒っぽいリス毛の小さなブラシだった。そのブラシは、どうやらたくさのヴァイオリンを見てきたようだった。
「かれこれ二十年使っているよ」とサムは言った。「ってことは、僕は金のかからない人間なんだな」
彼はすぐにリス毛のブラシを放り出し、13Bミディアム・ダークを指でヴァイオリンに塗り始めた。「労働安全衛生局がぼくの原料直塗り法を承認するかどうかわからないが、ぼくはニス塗りをする時には飢えた獣なのさ」と彼は言った。そしてアームランプのスイッチを入れ、それに普通の電球ではなく、ヒートランプが取り付けてあるのを見せた。そばにいるとすぐに暑くなったので、私は作業台から離れて座らねねばならなかった。サムは労働安全衛生局が推奨しそうな大きな色付きのゴーグルを掛けた。そしてランプに近寄った。

「ヴァイオリンの中に溶かしこもうっていう感じかな。それには時間をかけてゆっくりやらなくちゃならないんだけど、このランプを使えば少し時間が短縮できる。煮溶かすみたいにして、まさに木にしみこませるのさ」と彼は言った。作業を見ていると、煙が一筋ヴァイオリンのf字孔から立ち上がった。私はヴァイオリンが炎に包まれるのではないかと案じたが、その心配を口にするタイミングではないと思った。

サムに、今まで作ったヴァイオリンと違う音を出すために、下地に使うものの性質や成分を変えたことがあるかどうか尋ねた。彼はすっかり色のしみついた指でまだ「ニス」を塗り続けていた。「この作業だけは、ほとんど変えない。本当かどうかわからないけど、このソースを使い始めて、これが楽器の音に何らかの影響を与えると信じるようになった。だから、変えるのが、こわいんだ」とサムは言った。

「いろいろな形でこのことをきみに伝えようとしたけど」とサムは続けた。「何かがうまくいくのはなぜなのか、必ずしもわかるわけじゃないところが、気持ち悪いね。みんな「自分はわかっていなきゃいけないんじゃないか?」って自問し続ける。でも、この中のどれが有効成分なのかわからない。そして、他の要素を同じにしてーそれは無理な話だけどーすべての成分をどれもこれも徹底的にテストしなければ、本当に知ることなんかできないんだ。

だから、ぼくは楽器の震え方のほうに関心がある。この下地を塗るとき、ぼくは楽器にぎゅと押し付ける。そうすると、小さな弾けるような音がする。バリバリっていうような音がね。
ぼくが使っているこの下地は、まさに木のなかに入り込み、木と一体化するような感じがする。このスプルースを彫っているときには柔らかくて崩れやすかった。この下地は木の繊維をしっかりと引き締めるだろう。これ自体は接着剤ではないけれど、同じ効果があると思う。木の表面を強化し、できれば素材がほんの小さな振動にももっと反応するようになればいい弾いた時にジリジリいうような振動がもっと起こり、それがより複雑で明確な音を生み出すことになるだろう」とサムは言った。

サムはヴァイオリンに下地をすりこむのを止めて、ぼろ布とエプロンで手をぬぐった。作業を始めて一時間以上たっていた。そしてもちろん、そのヴァイオリンはフランケンシュタインの怪物のように目覚めていた。それには生命と性格が宿っていた。表面はまだ少し湿っていて、サムがまた両手に抱えてゆらゆら揺らすと、その様々な面から光が跳ね返り、裏板のカエデ
の炎の模様をまるで三次元のように見せ、スプルースの表板の平行な木目に深さと質感を与えた。サムはドラッカーのヴァイオリンをライトボックスのなかに掛けた。

 「さてと。これできみはほとんどの人が知らないところまで来たということだ。」と彼は言った。
得意な気もしたし、困惑もした。ヴァイオリンという、この倒錯した世界のどこに行くとしても、あの不思議な国のアリスがウサギの穴に落ちたのと同じくらいめくるめく体験を味わうことになるだろう。

「ニス」も例外ではなかった。今では私もわかっていた。ヴァイオリン製作の他の多くの過程と同じように、この重要なプロセスにおける真の秘密とは、秘密がないことなのだ。私はこの意外な新発見に慣れっこになってきた。そう、たしかにニスの秘密はとても興味深い。この秘密はずっとなにげない風景の中に隠れていた。人々が何世紀にもわたってニスだと思ってきたものは、その下にある肌を隠す一種の化粧にすぎなかったのだ。そして、実をいうと、外見でも音の面でも、ヴァイオリンの美しさの重要な部分は肌の深部、つまり木の孔にあるのだ。

その日サムの工房を出る前に、私たちはドラッカーのヴァイオリンを仕上げるにあたっての最終段階について話した。彼は下地を塗ってから、ライトブックスのなかに置き、一週間かそれ以上乾かすつもりだった。それから、彼が「本物のニス」と呼ぶものを合わせて三層ないし四層ほど塗るというのだ。それも乾かす必要があるだろう。そして、新品のヴァイオリンが数百年前のもののように見えるように手を加える。

ジーン・ドラッガーは「古びた」ヴァイオリンを注文したし、そうするための割増料金も支払うつもりだった。クラシック音楽の世界の頂点では、新しく見える楽器を欲しがるヴァイオリニストははいない。たとえ、現在生きている最高の職人が作ったものだとしてもだ。古い時代への崇拝の持つ力とは、それくらい大きい。

ドラッカーのヴァイオリンは、私が最後に見た時、つまりサムがブラシと指で下地を塗り、ライトボックスに入れて乾かしたときとはかなり違って見えた。サムは「本物のニス」を塗る前に、非常な硬質な樹脂である琥珀(アンバー)の層を重ねた。その目的は、ヴァイオリンに彼の言うところの「隔離層」を設けることだった。そうしておけば、その後に塗られるニスの層は木の孔に浸透することができない。
  

その後、サムの報告によれば、「樹脂の成分を加えたオイルニスを使い、それを加熱して、より乾きやすく、彩りがよくなるようにした。」その色は、金茶色がかったオレンジ・ブラウンだった。「それがぴったりだろうと思ったんだ」とサムは言った。

この本の中で、クレモナに行き、発つ前に、国立ヴァイオリン製作学校の近くの弦楽器専門の書店をぶらぶらしたのだが、、その時「ニスと非常に興味深い秘密ークレモナー1747年」というペーパーバックの本を見つけ、購入したと書いてあったが、上の本と思われる。wine spirit を使用したレシピが紹介してあるが、ヴィオリンに使用するものではなさそうである。

小嶋注)いかがだったろうか?私も久しぶりにこれらの本に再度、目を通してみて、大いなる収穫があった。特にニューヨ-クに住むサムの1層目のニスが名器の素晴らしい音の秘密なのだとは、気づかなかった。ストラディバリのニスを調べた調査には、ニスが板に1.5mm浸み込んでいたとあったのを思い出した。今後いろいろなトライが考えられる。楽しみである。

オイルニスの風景-ある研究家について

次に紹介するのは、韓国の物理化学者兼音楽家のアンドレア・バンである。あまり、彼に言及した研究家を見たことがない。私は偶然、Amazonだったか、オークションで「MAESTRO LIUTAIO IN CREMONA」という本を入手した。

この本のはじめに、「世界で初めてストラディバリ・ガルネリ天然塗料塗布復元がなされた業績を紹介するこの芸術科学誌は、イタリア語・フランス語・日本語・英語・ロシア語・スペイン語・韓国語・ドイツ語に翻訳され、出版されています。」とある。

アンドレア・バンは父親が韓国人、母親が日本人で、1935年日本で生まれた。4歳でバイオリン、6歳でピアノ、12歳でチェロを学んだ。17歳でパリ留学した。ヤノブスキー、ポンピュー、ミュリケンなどの巨匠に学んだ。また、1702年製の名器ストラディバリを受ける光栄に与かり、演奏家として確固たる認定を受け、ビバルディ弦楽四重奏団の一員となり、ヨーロッパ一帯を舞台に演奏活動に入った。


障害者援助慈善演奏会にも関心を傾け、多くの上流社会の著名者と接し、シュバイツアー博士やピカソにも会った。シュバイツァー博士との出会いは、アンドレアバンにとって古典名器原音再現に没頭する契機になった。シュバイツアー博士は卓越した音楽理論家でもあったが、古典名器を演奏するアンドレアバンを見て、名器の寿命により失われる古典原音を残念に思いながら、「いくつかの古典名器を持って演奏するアンドレアバンの演奏もいいが、永遠に葬られるかもしれない古典原音を再現し、その業績を人類の文化遺産として後世に残すのが、もっと大きな意義を持つのではないか」と言われた。古典名器原音を再現するには相当な演奏芸術哲学を持ち、物理化学、および音理科学を本格的に研究してこと可能であるが、若い演奏家アンドレアバンがそれに適任者であるとシュバイツアー博士が予見したのであった。

シュバイツアー博士の紹介により当時の有名な考古学者のノーマン氏を通じて古典名器の天然塗料に使われる天然物質の出処、用途などを教えられ、音理科学研究家としての道に入ることになった。
アンドレアバンはピカソとの交流を通じ古典名器の天然性色素配合法を習い高邁な昔の色彩を復元、発展させることができた。
200年から300年前の弦楽器製作者が使用していた塗料を収集するため、当時の貿易路をたどりガーナ、セネガル、ガボンなどアフリカ各地とインド、タイなどアジア一帯を歩き回り、昆虫の排泄物、熱帯樹林の樹液、コーヒーの実など各種天然塗料の研究と配合比率の研究は多くの失敗と挫折を経験しながらついにその秘法が糾明されるにいたった。

その間、彼が解体した名器は1702年製のストラディバリ、1711年製のガルネリ、1659年製のアマティ、1732年製のルゲリの4台であり、実験に使用された楽器は80台にのぼる。
彼が糾明したところによると、古典名器の塗料秘法はだいたい4種から5種の天然塗料を配合するものであったが、アンドレアバンは科学的分析と研究により26種の天然塗料の配合秘法を開発した。
したがって、彼の塗料秘法を通じた名器の音色は古典名器のストラディバリ・ガルネリを超えた。

彼は塗料だけでなく、弦楽器内部の支柱であるサウンドポストの特殊な材料と処方秘法も糾明し、古典名器よりも神秘な古典音色を開発することにより、世界各国の驚きと数多い世界的企業家からの商品化要請を受けた。しかし、彼は「霊魂を持つ芸術作品を作り残す」という一念と、永遠な文化遺産として芸術品を残すため、楽器一つ一つに全ての心血を注いでいる。

小嶋注)このアンドレアバンの魂柱は現在日本のある楽器店で販売されている。他に弓の毛につけるアンドレアロ-ジン(パガニーニのバイオリンケ-スに残されていた松脂)、駒なども販売されている。    

・アンドレアバンにより、科学的考証により究明された名器ストラディバリ・ガルネリの塗布工程とは 

弦楽器木型
  ↓ ← ポゾラナ(pouzzolana)を塗り、工具
  ↓    などによりできた傷を埋める
胴体外部塗布をブラシで5~7回塗布
(天然性自然物質4種~5種の配合塗料を使用)
  ↓ ← 5種の天然色素を使用し、名器特有
  ↓   名器特有の黄褐色や朱褐色の多様な
  ↓   色彩を表現
楽器胴体内部をスプレーで1~2回塗布
(天然性物質2種の配合塗料を使用)
  ↓   
6ケ月の屋内自然乾燥
 (塗布後2カ月から演奏可能)
  ↓  
名器誕生

ボゾラナ(pouzzolana)ースマホで検索したが、このスペルでは検索されなかった。pozzolanaで検索すると ポゾランー天然及び人工のシリカ質粉末。とあった。おそらくこれだろう。

ポゾラナ使用の目的と効果

1.木材の表面の傷や工具跡を埋める
2.木型のの上・下板を接着
3.湿気・冷気から音質が影響されることを
  防ぐ
4.木の細胞の乾燥を防ぐ
5.木型の弾力性の強化

 小嶋注)シリカ(珪素)については、今後のニス究明で、再度出てくる。

天然塗料の胴体内部塗布の驚くべき効果

アンドレアバンは最先端科学と物理化学を応用し、1962年、世界で初めて1702年製ストラディバリ・1711年製ガルネリ1659年製アマティ・1732年製ルゲリの4台の名器解体を断行し、音色の70%を左右する天然塗料五種を解明しただけでなく、徹底した臨床実験によりその五種成分の配合比率と塗布秘法まで解明した。またさらにストラディバリ・ガルネリには胴体内部にも天然塗料が塗られている驚くべき事実を発見しました。

内部塗布がどのような効果をもたらすのかを究明するため、アンドレアバンはまず世界一流の弦楽器木型製作者に塗料の塗られていない木型10台を注文し、天然塗料を2種から3種配合し内部塗布を施し、演奏実験をしてみた結果、驚くべき効果が得られました。そのうちの一部を紹介すると・・・

1.荘重な音波作用の機能生成
2.旋律の弾力上昇極大化
3.演奏瞬発力の上昇作用
4.演奏時のポジション柔軟性の機能
5.技巧演奏時の自由自在な消化疎通
6.均等和音の固定維持
7.無雑音
8.湿気遮断
9.演奏家の演奏能力の顕著な急進歩
10.大曲演奏のより容易な消化能力

なお、昔あった CIT(Cremona In Tokyo)のホームページには、次のようなアンドレアバンの言葉があった。「たしかにニスがすべてではありません。私は名器の素晴らしい音の核心は木型3割、ニス7割と考えています。

とはいえ、古典名器の木型の断面を見ると外部と内部から浸透された塗料層が中間で流れ合っているのです。ニスによって、木型の細胞木質は密度・硬度・反応度において優れた均質性を見せる組織に変化するのです。また、名器の表面には、ニス由来の独特のでこぼこがあり(現代の楽器にはそれがありません)、それも素晴らしい音色を生み出す秘密なのです。

シモーネ・F・サッコーニはその著書「THE“SECRETS” OFF STRADIVARI」で、様々なニスのレシピを公開しているが、それは彼がその当時、トライしていたもののようである。(先生からの見解)

この「MAESTRO LUITAIO IN CREMONA」には古典名器と彼の楽器との比較(音響測定(音域)試験)0~20Kと音波作用 感度焦点分析 のグラフや韓国ソウルにあるクレモナ弦楽器名器文化サロンを訪問したモラッシーの一団などやロシアか
らのインタビュー写真などが載っている。また、解した1種類のニス名も載っているが、ここでは教えない。

小嶋注)アンドレアバンはニス解析には、本当にめぐまれた楽器の解体(ストラディバリ、グァルネリはじめ4台)の経験を経て、発表されている。実は私の調査では、日本の楽器店にも売り込みを図っていた。ところが、そのニスを分析したところ、有毒性のある物質が発見され、断念している(重クロム酸カリ?)。昔からのニスには有毒性のあるものもあり、(黄色のガンボージェなど)使用にあたっては、十分は注意が必要である。
一方、内部にもニスが塗られていたという解析は貴重である。現在ではほとんどなされていないのではなかろうか。

オイルニスの風景-ストラディバリウスのニス(日本版)

その1.シャコンヌ・ニス(仮称)

シヤコンヌ・ニスと名付けているが、店では「オールドクレモナニス」と名付けている。

カタログより引用すると

オールド楽器は、楽器各部の強度を整えるという明確な音響理論に基づいて作られています。ある時代まではその理論は当然のことだと考えられており、ストラディバリ等の一流メーカーだけでなく、全てのメーカーはその理論に基づき製作をしていました。しかし、その理論はモダン以降の製作から忘れられてしまい、現在まで至っています。

オールドとは異なるモダンから現代までの楽器の特徴は、全ての部位が頑丈に作られており、それに強い弦を張り、高い弓圧をかけて鳴らすというものです。シャコンヌでは大量のオールド楽器を修理・調整する中で、現代製作の常識とは違う、オールド楽器の失われた理論・構造を再発見することができました。それは、楽器各部の強度を一定に作ることで、楽器全体がひとつの共鳴体として機能するような構造です。

ここでは特に横板の材質、厚さが非常に重要になってきます。横板の厚みが十分に薄くないと、表板、裏板の周縁部が振動できなくなり、まるで面積の小さい分数楽器のような音になってしまうのです。そしてこの理論と、ベネチアン・テレピン油のニスを使い、オールド名器の音色を新しい楽器で再現することに成功しました。この楽器はとても軽くできていますが、驚くほど力強く鳴ります。

この楽器店の軌跡を簡単に紹介すると、1976年に、個人(窪田社長)で楽器修理工房を始める。

・1982年 名古屋市に会社設立。
・その後、金沢店、東京吉祥寺店、九州小倉店、札幌店をオープンしている。
・2004年に名古屋店 移転オープン。
・最近は銀座にも店舗を展開している。

ということであり、いわば老舗といってよい。木型(ニスを塗る前のボディー)は中国で作り、輸入し、それを窪田社長はじめ、弦楽器職人が板を専用ノミで削り、音を合わせている。

小嶋注)弦楽器を扱うディーラーであったので叩いて、名器が同じ音(厳密にいうと違うのだが)に気付き、シャコンヌバイオリンを製作し、自分ところのニスを塗り販売し始めた。ポスター等によると板厚は部位により、異なり、その場合厚いと音程は高くなる。薄いと低くなる。

シャコンヌによるオールドクレモナニスの再現

カタログによると「オールドイタリーの名製作家は、最後に楽器に塗るニスによって楽器の持つ音を決めています。
長い間、そのニスは永遠の秘密とされてきましたが、シャコンヌでは、オールドクレモナニスの再現に成功しました。(日本国内特許取得済、英・伊米・中・独・仏の6カ国にて特許申請中)。
このニスによって、モダンや現代のいかなる楽器にもない、オールドの音を再現できます。(国内特許2005年、外国特許申請2006年)

このニスは、楽器の表面に使用される木材、イタリアンスプルースより採取されたヤニを、加熱し、濃縮したものです。黄色~淡赤~濃赤~褐色まで濃度により色の変化がつけられ、顔料等で色を足す必要がありません。比重が軽くて硬いので、音の反応が良く、高域の倍音が豊かに出ます。一般にニスは柔らかい方が良いと言われていますが、そうしたニスは輝かしい倍音に欠けます。硬くて非常に脆く、層の薄いこのニスは、楽器の振動を妨げません。全てのオールド楽器のニスがなくなっているのはこの脆いニスを使用しているからです。

このニスは、製造に時間がかかる上に引火の危険があり、塗るのが難しく、すぐにはがれてしまうといった問題があるために、徐々に使われなくなっていったのではないかと考えられます。モダン楽器の時代には、アルコールニスや顔料等で色をつけたニスが代わりに使われるようになりました。しかし、こうしたニスは使いやすさや耐久性では勝るものの、オールドニスの音色や色合いは決して真似ることができせんでした。

小嶋注)シャコンヌニスが特許を取得したことを聞いていたので、代官山音楽院時代の先生に聞いてみたところ、先生はあきれたように、1980年代には、すでに解明されており、それを日本人が特許申請とは?とおっしゃっていた。

チャールズ・ベアといえば楽器商の最高権威であり、かつてトリエンナーレの審査委員長も務めた人だが、シャコンヌがオールド楽器のニスをはがし、自分のところのニスを塗っていたことに関してカンカンに怒っていたという話を聞いたことがある。

松脂を加熱していくと、確かに黄色から赤くなっていく。しかしだからといって赤い材料が使用してなかったということにはならないだろう。
シャコンヌニスが塗られているからといって、昔のオールド楽器の音色を再現していることにはならない。頭だけで考えて、あわてて、180万円もする楽器を購入しないようお勧めする。(個人的な見解)

ストラディバリのニスに関しては、今後述べる「インターネットで発表されているニスの秘密」を読んでからにして下さい。

松脂を加熱したニスは亜麻仁油で溶かれ、さらに加熱した樹脂はテレピン油で溶かれ、割れてはがれるようにしているようだが、最近のシャコンヌバイオリンは黒くて、ルビーのような美しさ(本物のような)はないように思える。

参考までに YouTubeで公開されている「ストラディバリウスを科学する後編~バイオリン工房 シャコンヌ~」チャンネル(reportandaction) を紹介しておこう。 

なお、シャコンヌの窪田会長は2024年5月にご逝去されたとのこと。冥福をお祈りしたい。

ニス(欧州)でのストラディバリニス研究

ここで、日本編のストラディバリウスのニス執筆の途中であるが、特許申請した2005年頃の欧州でのニス研究結果について述べておこう。AFPBB News (2009.12.5)パリの音楽博物館で、アントニオ・ストラディバリが製作したバイオリンのニスを分析する科学工学の研究者、Jean-Philippe Echard氏らが参加して、行われてきたが、音楽博物館が4日、製造当時のごく平凡なニスに過ぎなかった、と発表した。ストラディバリウスの音色の秘密は「特殊なニスにある」との説がこれまで有力だったが、それを否定する結果となった。

ストラディバリウスの音色の秘密は「ニス」にあらず、仏独研究 

その特別な音色の秘密として木材や接着剤、防虫剤としての鉱液、バイオリンの形状など、専門家の間でさまざまな議論がかわされてきたが、有力視されてきたのは、表面の塗装に使われた「ニス」だった。
しかしフランスとドイツの専門家チームが、4年にわたる研究の結果、ニスはごく普通のものだったと発表した。
研究チームは、ストラディバリが約30年の間に作ったバイオリン4丁とビオラ1丁のニスを赤外線で分析した。その結果、ニスの材料として使われていたのは、18世紀の工芸家や芸術家の間で一般的だった油と松ヤニの2種類だけだったことが分かった。

研究に参加したパリの音楽博物館のJean-Philippe Ecard氏(化学工学)は「ニスが音色に影響を与えていると言えるだけの知見は得られなかった」と述べた。
琥珀(こはく)やハチが作り出す蜂ろうなどがニスに含まれているとの議論もあったが、それらの材料は一切検出できなかったという。さらに、松ヤニも豊かな色合いを出すために使われた可能性が高く、この他に見つかった赤い顔料も、見た目を変えるために使われたようだという。

研究チームは「ストラディバリは特別な秘密の材料を使わなかったのかもしれない。弦楽器製作、特に木材の仕上げに秀でた工芸家だったのだろう」とし、ニスのレシピは非常にシンプルなものだったと結論づけている。

その結果、ニスは2層に分けて非常に薄く塗られていることが判明。油絵に使われるのと同じ油が最初に塗られ、本体の木に軽くしみこんでいた。その上に塗られたのは油と松ヤニとの混合物。赤みを帯びた光沢を作り出すために顔料が混ぜられていた。この技術は画家の手法から発想を得たと見られる。いずれも、当時としては平凡なニスだった。琥珀(こはく)や特殊な樹液が溶かし込まれているのではないかなどと取りざたされてきたが、検出されなかった。

その2.K氏のニス(私の影の師匠兼友人)

なぜ、わざわざ2009年12月発表のストラディバリのニス解析記事を(日本編)の中間に入れたかというと、この記事を引用して、K氏は自分のオリジナルニスの正体をご自身のプログで発表していたからである。

やはり!と納得しました。私のオリジナルニスは、もう秘密にしてもしかたがないので、公表することにします。まさに、自家製の松ヤニの成分と油で作られています。この記事では、平凡なニスと書かれていますが、実は平凡ではないのではないかと思う。何年か、トライしてきて・・松ヤニと言っても。いろいろあって、どんな松のロジンかが、重要なのです。ストラディヴァリウスの音色は、基本的には、その形、板の厚さ配分から音色が決まります。

しかし、ニスは、オーディオで言ったらアンプや、スピーカーにどんな素材を、どう使って良い音を再現するか?といったように、良い音楽を、より良い音質で再現する・・・良い音の出る楽器を、ニスが、再現するわけです。同じストラディバリでも、オリジナルニスの残っているのと、現代のニスに塗りかえられたものではぜんぜん音色が違うはずです。多分、色は、顔料も使ったようですが、松ヤニだけで、良い色が作れることが書かれておらず、まだ、ここまでの研究チームは、発見していないのかも知れません。

そして絵と違って、音色にとって、扱いにくく難しいことは、実際に経験しないと分からないのかもしれません。簡単に松ヤニでくくられると、少し違うんじゃないかなー?と思いますが、松ヤニにもいろいろな種があります。ここまでくると、松ヤニとは言えない宝石のような物質になります。もう松ヤニとは違った、金属のような良く響く音がする、硬くて軽い、ルビーのような塊になります。油に溶かします。そのまま使うと硬すぎます。リンシードなどを適量まぜる、扱い易いのですが、音色が、名器の音色から、少し離れます。

使い方で、鳴る楽器を鳴らなくしてしまいます。上手く使うと、鳴らない楽器も鳴るようにできます。私は、ベネチアンテレピンから松ヤニを作ります。保存が悪いので、宝物のように大切に扱わないといけないので、現代のニスにとって変わられた理由が理解できます。製作は、とても危険で、火災の心配と、怪我のリスクが高いのでおすすめできません。実は7月に左手を、大ヤケドし3ケ月かかりました。今もニスは恐ろしいトラウマになっています。
    

小嶋注)マンションなどでこのニスを作っていた際、火がついて、火柱がたったり、爆発することがある。それで柄についたなべに松ヤニを少量入れ、ガスコンロの上をブランコのように素早く動かし、少しずつ加熱している。あくまで少量ずつが危険を防止する決め手になる。松ヤニには油分を含んでいるので、可燃物だということを忘れないようにして下さい。火がつくと燃えて、炭になります。

K氏のブログには、使用するオイルや赤色の使用原料等、様々なレシピが掲載されていたが、現在は掲載されているもの、されていないものがあると思われる。これについては、秘密ノウハウもあると思われるので、ここでは掲載しない。ただ、現在ではニスでは、最もストラディバリに近づいたものの一つではないかと思う。

彼のバイオリンは実際の本物をタッピングし、グァルネリ・デス・ジェスも研究し、どういう製作を板厚にしているかを探り出し、どこの音を合わせているかなど、天才ともいうべき耳を持っている。これは私が真似しようにも出来ない。
実際の本物のオールド名器を弾いているバイオリニストの評判もよいようだ。

シャコンヌのニスは同じ松ヤニから製造しているが、一時シャコンヌと契約し、ニスを塗布していたこともあったようだ。だが自由に製作をすることを制限してきたので、やめたとのこと。

彼の名前をいうと嫌な顔をされる(シャコヌ社長より)と言われた。
クレモナニスは現在、そのレシピは不明になっているが、(おそらく)ドイツには伝っていたものと思う。なぜならこのニスはドイツで教えてもらったとのこと。ドイツではリンシードオイルを全面に塗り、1年間乾燥させているようだが、今までの情報を読んだ人はその類似に気づくだろう。

その3.松下敏幸氏のニス

松下敏幸氏は現在、クレモナで製作している現役のレジェンドである。クレモナ弦楽器製作学校で、日本人として初めて先生になった人である。NHKで彼の挑戦を載せ番組が映されたことがあった。YouTubeで見つけたので、URLを載せる。


この中で、ニスに関しての述べているところがある。赤色についてはアリザニン。これ以外は考えられないと述べている。

油絵具のローズマダー色、クリムソンレ-キ色の原料はアリザニンレーキである。
私はこれら油絵具を使用している。しかし極めて強い色なので、うまく使わないと真赤になるので、要注意である。

樹脂については、述べられていないので、不明である。

.オイルニスの風景-近代に発明されたニス

ここで紹介するのは、既に廃刊になった雑誌ストリング7月号に発表されていた「リノキシンニス」です。
「ヴァイオリンの作り方 第16回 バイオリン工房 岩井孝夫さん、鈴木郁子さん」がクレモナ在住の内山昌行さんに依頼して「ヴァイオリンのニスについて 前編」に掲載されている。

リノキシンニスについて

前述のアルコールニスは、梅雨・夏場の高温多湿のためにニスの皮膚が溶け出してベトベトしたり、冬場は空気の乾燥によりひび割れたりすることがあります。これらの欠点を補うために、私がリノキシンニスと呼んでいる、乾燥リンシードオイルをクレモナニスに混合したオイルを使うと、非常に良い効果が上がります。

このニスはイタリアのヴァイオリン作りランポ・カジィーニが作り出したものです。クレモナのニスのいわばガラス質のニス
の皮膜の中に、油脂という繊維質のものを混合させることによって、ニスの皮膜が乾きやすくなり、またひび割れるという欠陥が補われます。仮に完成されたニスが作られたとしても、楽器の保管が悪ければニスが堅くなりひび割れたり、いつまでたっても完全に乾かないなどのトラブルが発生します。

楽器にとって適した環境は、温度10~30°C,湿度50~60%です。また楽器には、急激な温度湿度の変化が最も悪いです。たとえば冬場の寒い車や夏場の暑い車の中に楽器を置いたままにすることは良くありません。
アルコールニスでも楽器管理が良ければトラブルは起こりません。ストラディバリが塗った楽器でも、管理が悪くひび割れし
たものもあります。このように楽器を良い状態に保つように、持ち主も心がけなくてなりません。

リノキシンニスの作り方

①リンシードオイルコットをホーローの平鍋または皿などに入れて、直射日光を避けて乾燥させます。紫外線ランプの乾燥器・日陰干しなど、時間をかけて乾燥させます。ある程度乾燥し、皮膜が出来たらそれを挽肉潰し器にかけ、また干します。これを7~10日間おきに3~4カ月繰り返すと、最初は水飴状、またはハチミツ状ですが、カステラ状のパサパサしたものになります。これをリノキシンと呼びます。


②50gの炭酸ナトリウムNa2CO3,またはSODA SOLVEY (主に食器洗剤に用いられる)を1.5l(リットル)に溶かし、100gのリノキシンを入れます。さらに苛性ソーダを2~3粒加えます。
3日位で溶解します。加熱しますと溶解が早くなりますが、高温加熱は避けます。


③溶かしたリノキシンと同質量のコーパル樹脂をアルコールに溶きます。


④硝酸もしくは塩酸を加えて中和します。安全のため、リトマス試験紙を用います。硝酸を加えると、すぐに反応してプクプク卵焼き状の油脂が浮き上がってきます。それをホーロー鍋に取り出し、水洗いします。


⑤ ③と④で出来たものを合わせ、カップ1~2の水を加え、弱火で加熱します。水を加えると白濁しますが、気にせず加熱します。ゆっくりかきまわしながら加熱すると、油脂と樹脂が一つの塊になります。


⑥ 火を止めて塊を取り出し、水を切ります。サランラップの上で薄く板状に引き伸ばし、完全に乾燥させます。


⑦ 完全乾燥したらアルコールに溶いてニスとして使います。


*このニスは単独で使っても良いし、また従来のクレモナのアルコールニスと混ぜて使っても良い効果が上がります。

このリノキシンニスについて

通常、ニスはオイルニスかアルコールニスかに分類されるが、オイルにもアルコールにも溶けるニスとして開発されたとどこかで読んだ記憶がある。

このニスの作りを実際にご自身のブログで発表したのが、当会の高橋明氏である。現在ではもう見られないと思うが、その
行動力には敬意を表します。ちなみに高橋氏はクレモナ音楽学校の卒業論文でストラディバリのバイオリンが現在、残っている木型のどれを使用したかについて、発表している。通常、真っすぐに写真は撮影されていないが、それをソフトを使い、修正して分類された。しかも、その卒論をイタリア語と日本語で作成し、日本語の一部は代官山音楽院に寄贈された。私はそれを見たさにここの日曜クラスに入学した。

なお、代官山音楽院のバイオリンクラフリペア科はその後、閉鎖となったため、その論文がどうなったかは高倉主任講師に確
認しないと不明である。
日本弦楽器製作者協会主催の最後の「弦楽器フェア」で馬戸氏がこのリノキシンニスを使用したバイオリンを展示していた。
素晴らしい音色だったと記憶している。

オイルニスの風景-会員のトライ・研究

ここで、当会会員が探求しているニスの紹介をしておこう。残念ながら、この会員O氏は現在、既に退会されているが、幅広
い探求をされている。まず、ニスの方から説明してみよう。

この本については、2010年O氏がドイツ滞在中に抽選に応募し、当選して入手したとのこと。Brigitte Brandmair とStefan -Greiner 著。
Scientific Analysis of his Finishing Techniqeon Selected Instraments とある。O氏は多分現在日本にはこの一冊だけではなかろうかと述べている。かなり、高価な本と思われる。

内容

この研究には木に含侵している物質を見出すためにX線分光器を使用し、ニス層には紫外線を当て色の変化で物質を特定している。ストラドのニスは4層から成っている。下地層、ステイン層、透明ニス層、色ニス層で構成されてる。


■ 下地にはニスを塗る前に後の層が木に浸透を防ぐためにニカワを塗布した可能性がある。
■ 下地の上には水溶性のステインが塗布されている。この中には塩分が含まれ、当時の防虫剤としての役目を果たした可能性がある。ステインは木の細孔に沈み込んで見える。
■ 透明ニスはオイルニスと思われ、リンシードと松脂で構成されている可能性がある。松脂は生か炙ってあるのかは現在は不明である。
■ 色ニスは透明ニスに色素を入れたもので、下地の上のステインと同様の色素の可能性がある。
■ 研究チームはcarmine 顔料同様に茜(mader)顔料を用いてストラディバリのニスに類似するニスを完成させた。ピグメントは金属塩を持つ溶解染料の沈殿によって製造することができる。アルミ、錫を含む金属塩を用いるとストラデバリのニスのようにサーモンピンクの色になった。イタリアのcarmineで観察でき、時にcrimson 顔料と呼ばれた。カルミン酸はコチニールの昆虫のメスを乾燥させ作り出す。

小嶋注)下地に後のニスの浸透を防ぐために「にかわ」を塗布した可能性があるとあるが、これには賛成しな
い。この上に水溶性のステインを塗布するのに、にかわがはがれる恐れのある下地を塗るだろうか?
また、にかわは非常に硬くなるので、振動に影響あると思う。

・セルロースナノファイバーやバクテリア関与古い木材はセルロースが結晶化することが原因ではないだろうかとの推論に基づき、東京大学のご協力でセルロースナノファイバーの結晶を得て、白木に浸透させる試みをしていた。

O氏と第2代目の川原会長が相談して、進めていたようである。層があまりにも薄く、下部を磨いている間に剥がれが発生し、リペアに時間を要した。セルロースナノファイバーの結晶塗布は現状では効果不明。木材の細胞よりも小さいため、木材の隙間を埋めてしまった可能性がある。
 

Palo Vetorri の木材処理

彼がまだバイオリン製作を始めた頃のこと、父から木材を水に沈める処理を聞き、実施した。結果木材は黒ずんでしまい使い物にならなくなってしまった経験があった。しかし、50年経って父の言う事の正しさを知った。作業に大きな誤りがあった事が分かったのであった。
彼は正しい作業方法を以下のように言っている。バイオリンの木材one peace に対し10 Liters をプラスティクコンテナーに入れ、ガラスまたはプラスティクの重石として木材が浮上がらなくなるまで待つ。失敗の原因は劇的に起こる。

①余りにも早く乾燥させない、bacteriaは木材の中に糖分が不足すると活動が鈍る。
②湿度の高い処に保管しておくと木材の表面にyeast が発生し、木の中のたんぱく質を食べてしまい木材として使えなくなってしまう。換気の良い棚に置く事でyeast の発生が抑えられる。
③棚に置かれた木材は3cm 間を置いて保管しないと再びyeast の被害にあうことになる。また壁などとの間隔を置くべきである。
④強い日が当たる場所に保管すると木材にクラックが発生し、微細なエアーポケットが発生する。尚水に浸した木材は約18ケ月程度で引上げるべきである。

糸川英夫氏の”ヒデオ・イトカワ号”

バイオリンのエイジング法糸川英夫氏と言えば、戦闘機やロケット博士として有名であるが、彼が工学博士を取得したのは、音響工学である。「音響インピーダンスによる微小変位測定法」の論文で取った。また、脳波測定アンプも製作している。

戦後、氏は飛行機研究を中止され、バイオリン製作をし、ユニークなバイオリン(E線側にも、バースバーをつけた)を作った。最終的に中澤宗幸氏が改造し、E線側のバースバーの下に魂柱をつけた。このバイオリンはユーディ・メニューイン氏にも弾かれ、E線の音が大きいと評価された。この製作の際、エイジング効果を出すため、茶箱2つほどのガラスの部屋を作りり、その箱の真ん中にピアノ線4つで、吊るし、中の空気を機械ポンプでどんど引いた。そして、ピアノ線でから超音波で振動を与えた。また赤外線をあてた。
超音波を1時間あて、赤外線を1,2時間をあてることを2ケ月間、行った。ニスではないが、板自体の変化をもたらした方法として、紹介する。脳波研究が認められて、半年ほど米国に行かれた際、ハーバード大学のサウンダー教授(音響学)とも交流している。

オイルニスの風景-オイルニス使用にあたっての注意点

その1.臭いについて

オイルといっても、揮発性の高いものや、低いものなど様々なものがあるが、その臭いは感じる人はすぐわかるので、
出来るだけ、家のなかに充満しないようにする必要性がある。引火の恐れもあるので、その点も注意が必要である。

その2.塗膜の乾燥具合によるひび割れ

これはアルコール・ニスにも当てはまることだが、上に塗った塗膜が先に乾燥すると、塗膜が割れてくる。せっかく製
作した商品価値が落ちる。ただ、古く見せた(一部、塗膜が剥がれた)バイオリンを好むバイオリニストもプロには多い
ので、彼らには、あとで古く見せる作業をして、余分に費用をいただくのも良いだろう。

その3.乾燥するための紫外線照射による塗膜の溶け

オイルニスは塗膜を乾燥させるために紫外線照射をすることがある。ところが時々、見かけるのだが、乾燥箱に紫外線
蛍光灯を取り付ける際、小さな箱の場合、その熱でニスを溶かしてしまうことがある。クリーム色になってしまう。
せっかく木目がわかるように、塗装しても、それが消えてしまう。私が音楽院で学んだ際、かなり大きな箱があったが
頷けることである。温度と時間の要素も関係していよう。

私はあきらめて、太陽光で乾燥させているが、風によりいろいろなゴミが飛んでくる。これらは、ピンセットで除去せね
ばならない。(固まってしまう前に)

オイルニスの風景-インターネットで発表されているニスの秘密(欧州編)(米国編)

the Strad に掲載されているニスの秘密1「成功の秘訣:ストラディバリのワニス」2021.9.28 スチュワート・ポレンズ

ストラディバリのワニス処方の探求は18世紀から続いていますが、ワニス自体の科学的分析はほとんどありませんでした。スチュワート・ポレンズは、2009年5月の特集で、ストラディバリの5つの楽器のワニスに関するワニスに関する彼の最近の研究の結果を明らかにします。

ストラディバリのニスは、その美しい色と透明度で長い間賞賛されており、彼の楽器の並外れた音色特性にも貢献していると考えられています。これが多くの人々に彼のニスの「秘密」を探すように導いたのです。私がヴァイオリンニスに興味を持ったのは、1976年から2006年までメトロポリタン美術館で楽器のコンサベータとして働いていたときでした。
博物館を出てまもなく、黄金時代のストラディバリバイオリン2本の頂上から採取したワニスの微細なサンプルを分析する機会がありました。また、シモーネ・サッコーニがストラディバリの3つの楽器を修復中に取り除いたニスを塗った木材も調べました。これらの研究は両方とも明るい結果をもたらしましたが、これについては後で説明します。

技術の発展により、ストラディバリのワニスの成分を確実に分析できるようになったのはごく最近ののことですが、その可能性のある成分は18世紀以来、激しい憶測の対象となっています。この製法を積極的に求めた最初の人物の1人は、1775年に末っ子のパオロからストラディバリのワークショップ資料の購入を交渉したバイオリンコレクター兼歴史家のイグナツィオアレッサンドロコツィオディサラブエ伯爵でした。1804年、伯爵は司祭のガエターノペルシコ神父から手紙を受け取り、ストラディバリが使用したと信じていたクレモナの貴族アレッサンドロマッジ伯爵からから与えられたスピリットニスのレシピが含ま
れていました。処方は次の通りです。:4オンスのガムラック、2オンスのサンダラック、2オンスの涙のマスチック、40ドラゴンの血(単位不明、恐らく穀物)、サフランの半分のドラム、及び1パイントの整流スピリッツ。

ストラディバリのワニスの別の可能なレシピは、バイオリンディーラーのW.ヘンリーヒル、アーサーF.ヒル、アルフレッドE.ヒルがストラディバリの伝記を研究している時に発見されました。彼らは彼の生きている祖先の一人ジャコモ・ストラディバリ(1822-1901)と連絡を取りました。

 「父が亡くなった時、私は少年でした。・・この文章は以前、掲示したので、省略」

不思議なことに、ヒルズはジャコモストラディバリが公式を彼らに開示したことがあるかどうかを明らかにしませんでした。しかし、それは何年にもわたって受け継がれ、「1704」ワニスとして知られるようになり、その名前はジャコモストラディバリが言及した聖書の日付に由来しています。サッコーニは、修復家のハンス・ヴァイスシャールを含む数人の生徒に公式を開示し、彼の著書「ヴァイオリン修復:バイオリン製作者のためのマニュアル」(1988年)でサッコーニの手に書かれた式が記載されたインデックスカードの複製を出版しました。

それは読んだ:45グラムのシードラック、9mlのスパイクオイル、7.5グラムのエレミ、及び180mlのアルコール。

私の有名な先祖のスキルと彼が使用したニスの名声について繰り返し言及されているのを聞いていました。ここに、それでは、同じものの処方箋がありました

ジャコモ・ストラディバリ

これらの物語に真実があるかどうかにかかわらず、ヒルズはストラディバリがマギー伯爵やジャコモストラディバリによって伝えられたようなスピリットワニス(樹脂成分の溶剤と媒体としてアルコールを使用)を使用したとは信じていませんでいた。ストラディバリの伝記の中で、彼らは次のように書いています。

「彼が純粋なオイルワニスのみを使用し、その組成は油に溶けるガムで構成され、優れた乾燥品質を持ち、着色成分を添加したことは、議論の余地がないと思います。」

彼らがほのめかした論争は、1872年にポールモ-ルガセットでチャールズリードによって取り上げられました。リードはクレモナーゼワニスについて、時には互いに矛盾する5つの当時の理論を列挙しました。ストラディバリのワニスは当初生で粗雑で不透明でしたが、その時はそれをより魅力的にしました。それが精神ニス(アルコースニスの誤訳?)であったこと、その
証拠はアルコールに対する感受性によるものです。それがオイルニスだったこと。そして、秘密は偽和によって失われましたー古いクレモナーゼとベネチアのメーカーは、もはや市版されていない純粋なガムにアクセルできました。

歴史的なバイオリンニスの研究はほとんど行われていません。最初に発表された研究は、国際博物館評議会保存委員会の第5回トリエンナーレ会議(1978年)の議事録に関するレイモンドホワイトの報告であり、セラフィン、ザネット、トノーニ製の機器から採取されたワニスサンプルのガスクロマトグラフィーによる分析が含まれていました。ホワイトは、これらの3つのワニスが主に乾性油と松脂で構成されていることを発見しました。

近年、ジュゼフ・ナジヴァリー、クレア・バーロウ、ジム・ウッドハウスによって、エネルギー分散型X線分析用の走査型電子顕微鏡を使用していくつかのバイオリンワニス研究が行われてきましたが、この方法は(複雑な分子を構成する官能基ではなく)離散的な化学元素の存在を特定するだけであり、したがって、オイルを確認するために本質的に役に立ちません。ワニ
スの樹脂及びその他の有機成分。

現在まで、ストラディバリのワニスの有機成分の分析は、JPエチャードがAnalytica Chimica Actaに発表した2006年の研究で、亜麻仁油、松脂、ベニステレピン油を主成分として特定しています。残念ながら、エチャードは、彼と彼の仲間がワニスサンプルを採取したストラディバリ機器(楽器?)の日付を特定または示しておらず、楽器のどこからそれを取り出したかも示していませんでした。

私自身、ストラディバリのニスの研究に挑戦したのは2006年末でした。メトロポリタン美術館の2人の研究者、ジュリー・アンスラノグルとアドリアーナ・リッツオは、フーリエ変換赤外顕微鏡(FTIR)、熱分析ガスクロマトグラフィー質量分析法、ラマン顕微鏡技術を使用して、1708年と1710年に製造された2つのストラディバリバイオリンの上部から採取したワニスのサンプルを分析しました。サンプルは、指板の下の高い位置から、摩耗、損傷、フレンチポリッシングから比較的に保護された領域から採取されました。Rizzoは、両方のワニスサンプルが、主に乾性油(熱体の亜麻仁油である可能性が高い)と酸化針葉樹樹脂(松脂からのコロフォニーである可能性が高い)からなる同様の配合を示したと報告しました。

タンパク質及びセルロース残留物(おそらく木材基材からの接着材または繊維)はFTIRによる分析の前に、ワニスサンプルのクロロホルム抽出後に残されました。1708年のワニスには正体不明の赤色有機着色剤が含まれており、1710年のワニスの赤色顔料粒子はラマン分光法によって赤黄土色(酸化鉄)として同定されました。

ベンゾイン、シェラック、天然ワックス、タンニンを含む染料の微量の成分も見つかりましたが、これらは後の修復処理やフレンチポリッシュによる汚染物質である可能性があります。これらの分析は、Echardの2006年の研究と一致していますが、彼がテストしたサンプルでは、ヴェツィアのテレピン油も見つかり、赤い黄土色ではなく朱色(辰砂としても知らせています)が赤い色素として特定されました。

ワニスの主成分の1つである亜麻仁油は当時どこにでも存在し(ワニス作りや油絵で一般的に使用されていました)、松脂は海軍貯蔵業界の製品であったため安価で豊富でした。レッドオーカー(イングリッシュレッド、スパニッシュレッド、トスカーナレッド、ベネチアンレッド、テラローザ、シノピアとしてさまざまに知られています)もすぐに入手でき、最も安価な顔
料の1つでしたが、2.78~3.01の比較的高い屈折率のため、ワニスを着色するのに理想的な選択肢とはほど遠いです湖の顔料や有機染料よりもワニスが濁っています。そのほとんどは、クレモナの絹染め産業にサービスを提供するサプライヤーを通じてストラディバリが利用できたでしょう。

湖や染料に対する赤黄土色の利点は、オイルワニスに不可欠な乾燥機として機能することと、永続的であることです(ドラゴンの血、サフラン、及び植物から抽出された他の未固定色などの人気のあるバイオリンワニス着色剤は非常に逃亡しています)。Echardによって同定された色素朱色(硫化水銀)の屈折率は2.81~3.14で、赤黄土色の屈折率に非常に近く、高濃度で
使用するとベール効果も生まれます。亜麻仁油の屈折率は1.48ですが、乾燥と経年変化とともに約1.57に増加し、時間の経過とともに色素ワニスの透明度が高くなります。パイン樹脂の屈折率は約1.525です。

この作業が行われている間、ヴァイオリン製作者のデヴィッド・シーガルは、サッコーニがストラディバリの修復作業の過程でいくつかの楽器から取り除いたニスを塗った木片を私に提供してくれました。これらには、1730年の「ポール」と1736年の「パガニーニ」チェロ、及び1734年のストラディバリバイオリンから取られた、ニスを塗ったメープルのセグメント、リヴとペグボックスのの断面が含まれていました。

残念ながら、それらはかなりの摩耗、取り扱い、そしておそらく再ニスまたはオーバーニスにさらされた非常に露出した領域から来ました。私はサンプルの一部を、世界有数の分析研究所であるイリノイ州ウェストモントのMcCrone Associatesに送りました。グレッチェンL.シアラーはサンプルが複雑な層状を示すことを発見しました。

彼女はまた、シェラックといくつかの異常な材料の存在を検出しました。たとえば、「Pawle」チェロのペグボックスの頬のワニスは、元の上層では驚くほど木炭と識別された不透明でギザギザの粒子の分散を示し、下層には薄茶色といくつかの赤い粒子があります。
「ポール」チェロと1734バイオリンのワニスの予備的なガスクロマトグラフィー質量分析も、松脂とおそらく乾性油の存在を示しており、シェラックは「パガニーニ」チェロのリブにあるワニスの主成分であるようです。

私は、水銀アークランプによって生成された特別にフィルタリングされた紫外線のビームを顕微鏡の対物レンズに向ける落射蛍光顕微鏡で、サッコーニのサンプルのニスを塗った表面の構造を調べました。物体から蛍光を発する可視光は、対物レンズを通過してからフィルターを通過し、ワニスの様々な層と顔料などの介在物を区別するのに役立ちます。添付の写真の色は、「ブラックライト」でバイオリンを調べたときに肉眼で見た色とは異なることに注意して下さい。ニスを塗った木材サンプルの断面を顕微鏡で調べたところ、バーロウとウッドハウスによって報告された粒子状の地面の証拠は見つかりませんでした(The Strad,1989年4月)。

結論として、ストラディバリが使用したワニスは、ヴェネツィアの国立マルチャーナ図書館の16世紀の写本などの初期の情報源で言及されているヴェニスコムーネ(通常のワニス)と組成が似ています(絵画芸術の中世及びルネッサンス論文、メ
アリメリフィールド、ロンドン、1849;ドーバー再版、1999)、亜麻仁油の加熱と松脂または奥付けの組み込みを要求しています。

この匿名の原稿の著者は、1オンスの樹脂に対して2オンスの油の割合を提案していますが、樹脂の量を2倍にしてワニスにボディを与えることができることを示しています。加熱すると、亜麻仁油と松脂で作られたワニスはかなり暗くなりますが、ストラディバリや他のクレモネーゼの巨匠の作品の特徴である黄金色がかった赤みを帯びた色を与えるには、鮮やかな色の顔料または染料を追加する必要があります。

低倍率の実体顕微鏡、または単純な虫眼鏡の下で、特に紫外線ランプで見る場合、ストラディバリは一般に、着色されたワニスを非着色層の上に塗布する2層システムを使用していたことは明らかです。サッコーニの木材上のワニスサンプルの2つでは、結合された層の厚さは約90~110ミクロン(1000分の1ミリメートル)でした。

花粉の亜麻仁油と松脂ワニス。粗く挽いた天然の赤い黄土色の顔料は、高品質のアーティストの油絵具よりも透明な効果を生み出しました。

タンパク質性物質の存在は、動物の接着剤、カゼインまたはアルブミン(卵白)で作られた粉砕またはシーラーの使用を示している可能性があります。接着剤の地面は、オイルニスが木材に浸透するのを防ぎ、乾燥が遅いワニスでは特に重要であり、そうでなければ、長い乾燥プロセス中に木材に浸透します。

「ポール」ストラディバリチェロは、木炭として識別されたギザギザの粒子の微細な分散を示しま

亜麻仁油と松の奥付けワニスのサンプルをいくつか用意し、さまざまな赤色酸化物顔料を試しました。驚いたことに、かなり粗く粉砕された天然の採掘された赤い黄土色の顔料(Kremer Pigmente40351)は、今日、合成赤黄土色のはるかに細かい粒子で作られている高品質のアーティストの油絵の具で着色されたワニスよりもわずかに透明な効果を生み出しました。色と透明度は、「アラード」ストラディバリバイオリン(上)のニスに非常に似ていました。乾燥プロセスを早めるために、ストラディバリの時代には使用されなかった乾燥機であるコートライシカティブを追加しました。

この乾燥機は、各コートの乾燥時間を、シカ剤を含まないワニスで必要とされる1週間以上ではなく、数日に短縮します。乾燥の遅いオイルニスの利点の1つは、セルフレベリングであり、ブラシや指先で動かして色を均一にできることです。スピリットワニスは、アルコールが下にあるコートを柔らかくし、乾燥が非常に速いため、均一な効果を生み出すのが難しいため、塗布がより困難です。

ヒルズは、ストラディバリのニスを正確に評価したことで称賛されなければなりません。チャールズ・リードによって言及された理論のいくつかも正しいことが証明されました。ストラディバリのワニスの単純な処方と彼が達成した美しい効果の間には矛盾があるように見えますが、これは彼のスキルを強調するのに役立つだけです。ストラディバリのワニスに「秘密」があるとすれば、それはエキゾチックであいまいな材料の使用、またはそれらの複雑な組み合わせではなく、非常に単純な配合の巧妙な適用にあります。

2010年にケンブリッジ大学出版局から出版されたスチュワート・ポレンズの著書Stradivari には、サッコーニの木材サンプルで特定された材料の完全な説明が含まれています。

The Strad に掲載されているニスの秘密2「ストラディバリのワニス:化学分析」2021.9.28

ジャン・フィルリッペ・エシャールとバルタザール・スーリエは、パリの美術館のマスターの楽器5つを使用して、ストラディバリのニスに関する7年間の研究の結果を明らかにします。2010年4月から「ダビドフ」(1708年),「トゥア」(1708年),長柄
ヴァイオリン(1692年頃),「プロヴィニー」(1716年),「サラサーテ」(1724年)クレモナーゼワニスの正確な組成、特にストラディバリで使用されているものは、これらのページで何度も議論されてきました。しかし、この主題に対する科学者の愛情が増し、過去60年間に少数の分析調査が発表されたにもかかわらず、明確化は達成されていません。どちらかといえば、その逆が当てはまります。

2003年、パリ音楽院のステファン・ヴァイデリッヒ研究室長の招聘で研究を始めたのですが、考古学や保存科学にインスパイアされたマルチアプローチ手法が、楽器メーカーの歴史的技法や素材に新たな光を当てることができることは、当初より明らかでした。特に幸運だったのは、ミュージック美術館の楽器が市場の考慮から解放され、博物館のプロトコルにより、研究を自由に実施及び公開できることです。 

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