
展示会に向けて、バイオリンを製作していると、いろいろな小さな壁や選択を迫られる。
実は初心者がバイオリンを自分のみで製作することは難しい。最近はブログやYouTube 等で様々な方法が公開されているが、それを見ただけで製作すると途中で挫折する。
なぜなら、肝心なところは秘密であったりするので、わからなくなると思う。また、特殊な工具を使わなければ、時間がものすごくかかったり、失敗したりする。また、細かい寸法がわからないとどの様に製作していいかわからない。また、製作順序があるので、飛ばすとうまくいかない。
つくつく感じるのは、どこかの工程で手を抜くと後の工程でしっぺ返しを食らうということである。
内容
この製作ノートでは、ぶつかる小さな壁の乗り越え方や製作していることでの疑問(私が感じた)や発見をさらしていこうと思う。勿論、私なりの乗り換え方も書いてみようと思う。ある意味では自分の恥をさらすことになるが、ヒントを得る人や逆にアドバイスをしていただく人も現れるかも知れないと思う。なお、このレポートは不定期に継ぎ足しで書いていく予定であるので、興味ある人は定期的に会員からの寄稿をチェックしていただきたい。
プロフイール
私の製作に関してのプロフィールを明らかにしておこう。バイオリンの演奏を習い始めたのは、50才からなのでそれ以降だと思うが、大阪の高槻市にあった岩井孝夫氏の工房「クレモナ」を何回か訪問している。そこで将来、製作にむけての板を何組か購入している。また、岩井さんの「バイオリン製作全集(全5巻)」も購入している。確か5万円近くしていたと記憶している。後に菊田浩さんも購入していたことを知り、なるほどと思った。また、第2回 日本バイオリン製作研究会の展示会にも行っていた。プログラムが残っていた。
本格的に習い始めたのは、60才の定年退職後である。東京の代官山音楽院の日曜クラスに入学した。ちょうど高倉 匠主任講師が日曜クラスを担当する時期とピタリあった。名古屋からだったので、夜行のバスを利用したが、TOTALで200万円近く費用がかかった。退職金のおかげである。
私は製作に関して、いろんな面で運がよかったと思う。日本バイオリン製作研究会で初めて、作品を発表して、そこで久我一夫さんと知り合い、いろいろ教えていただいた。第二の師ともいう人である。その翌年には久我さんは退会されているので、ぎりぎり間に合ったことになる。音楽は時間とともに変化するので、ある時点で止めて、その時、どのような周波数がどれくらい発生しているのか知るのは困難である。
ところが以前、属していた会社の先輩がそのソフトを開発していた。また、会社の弦楽合奏部でも一緒であった。高周波は分析できないが、ピアノの通常の範囲はわかる。また、TVでも紹介されているシャコンヌが名古屋が本社なので、窪田社長のうんちく講演会は長年にわたり、聴くことが出来た。(2020.3.11)
バイオリン製作するにあたっての型について
バイオリンを製作するにあたり、まず型を製作しなければならない。型には、内型と外型がある。この内型による製作方法は、イタリア出身でウルリッツァー社で活躍していたフェルナンド・サッコーニとその弟子によるフランチェスコ・ビソロッティによって復活された。
ビソロッティと並び称されるジオバッタ・モラッシーは外型にによる製作が得意だったようだ。外型の製作方法を編み出したのは、フランスの製作者兼楽器商のジャン・バティスト・ヴィヨームと言われている。
内型による製作方法は内型に横板を添わせて製作していくが、有名なアントニオ・ストラディバリもこの方法で製作をおこなった。フィオリーニがこのストラディバリの内型を購入して、クレモナ市に寄付したので、現在博物館に展示されている。外型は同じバイオリンを早く製作するのに適しているといわれる。
ここでは内型による製作による製作方法による方法について、記述していこうと思う。まず、初めてバイオリン製作するにはどうすればいいのだろうか?
1.最も早いのは、習う先生の使う型をコピーさせてもらうことである。私が本格的に代官山音楽院 日曜クラスで学んだ時は、その時の日曜クラス担当だった高倉主任講師より、写させてもらった。

2.もう少し、自分で関与したい場合は、楽器のポスターより、コピ―する方法である。この場合、楽器名がわかるので、単にストラドの型というより、ストラディバリウスの何という楽器のモデルだということが出来る。


実物大のポスターでは、その形状と寸法が写すことが出来、また、その裏には板厚も載っていて、また断面図の形状もわかる。これがポスターを使用するのに、役立つ点である。
3.ポスターの写真を撮影する場合、ある1点より写すわけだから、端へ行くほど、厳密にいうとズレが出てくる。つまり寸法が微妙に違ってくる。それを嫌う製作者はそれを補正して、型を作ろうとする。プロの一部はこのようにしている。少しレベルの高い内型なり、外型の製作方法といえよう。
4.日本では発行されることは少ないが、外国では原寸大の写真集が発行されている。ストラディバリやグァルネリ・デス・ジェスもある。また、本物のストラディバリの型の写真集もある。プロ製作者はこのレベルで型を設計している。この場合
例えば、ストラディバリウスのP型(G型)をモデルに製作したと言えるわけである。グァルネリ・デス・ジェスの型は残っていないので、正確な寸法よりおこしたものである。
5.さらに高度なレベルとなると、その型を自分で設計しようとする。現在残っている型がどのように設計されたかを研究し、コンパス(円)や黄金分割などを駆使して、設計するわけである。プロでも勿論、いるし、アマチュアでもいる。
以上が型の製作方法である。
その他の方法・・・・内型でもイタリアとドイツでは内型は異なる。イタリアでは、ここに載せた型だが、ドイツでは型より横板を外す際、変形しない内型を設計している。国民の性格の違いは興味深い。ドイツで学んだ製作者はそのホームページにその型を紹介している。
内枠の作成について -一つの例として-
型の材料は音楽院では、愛知木材から購入したものだったが、会社のHPを見てもなかった。
いろいろ探したら、篠崎バイオリン工房でイタリアからの合板を販売していた。製作直前に注文しようとしたら、イタリアで加工しているところが辞めてしまっていた。探しているがいつになるか不明とのこと。
それで東急ハンズで適当な厚みの合板がないか聞いてみると、厚さ12mm、15mmのものがあるということで、15mmのものを購入した。
製作バイオリンはAntonio Stradivariの「MILANOLLO」1728年モデルだったので、入手していたポスターより、その形状をトレーシングペーパーでトレースして製作にかかった。ポスターの寸法は製品なので、型は4mm短くした線を引き、板の上からピンでその線を押して板の上にトレースした。
その後、本物の原寸写真と寸法写真を入手出来たので、比較すると縦の寸法が短かった。そのため、型を修正した。(下の写真ー横板付 参照)わかりにくいかもしれないが、上の線を木を接着している。型につけるブロック部寸法はオリジナル通りにした。なお、型にあいた穴は音楽院での型をまねて、ブロックをクランプで固定しやすいように、大きくした。
教訓ーSTRADは本物が残っているので、その写真で作成した方が良い。

横板作成
横板は裏板の端材からではなく、専用の横板材料を購入していたので、それを使用した。厚さをストラディバリが使用している1mm狙いで、スタンレーのカンナで削り始めた。
ここで、一つ問題が起きてきた。横板を削っていくうちに、所々に深く入り、厚さが薄い箇所が出てきた。場合によっては1mmを切る部位も出てきた。となるとその部位は使用出来ない。何度やってもダメなので、製作仲間に聞いてみた。その結果、大きなカンナで一気に削るか、刃先が櫛状のカンナで削る方法である。
そういえば、音楽院のノートに今後買うべきものとして、櫛状のカンナの名前があった。それで小さい範囲を細かくカンナで削り、それを防いだ。この方法も教えてもらった。それで何とか必要な長さ分を確保した。
ブロックの作成
ブロックの材質については、ストラディバリウスだけは柳の木を使用したことが知られている。それで以前、購入してあった柳のブロックをカットして、使用したが、これは(ストラディバリコピーを作るのであれば)失敗であった。
ストラディバリがなぜ柳を使用したのかは通常、使用する表板に比べて、極めてか軽く、工作しやすいためであった。しかし、日本の柳は比重が重く、逆であった。表板より比重が重いものだった。また、以前は柳で作った高級まな板をカットして使用したが、これはさらに比重の重いものだった。
三苫由木子さんが講演会で、上部(ネックを入れる)の柳は硬いものを使用していると言っていたので、まな板の柳は上部で使用し、他は購入してあった柳を使用した。ちなみにグァルネリ・デス・ジェスは表板と同じマツの材質を使用している。