製作者紹介 簗瀬 敬 さん

~パブロ・カザルスの音色に魅了され、マッテオ・ゴフリラー モデルのチェロを製作中~
私がバイオリン製作研究会に入会したのは2005年ですので、もう20年も経つのですね。そもそも私がバイオリンを自分の手で作ってみたいと思い立ったのは、退職後の人生後半を如何に生きるかを考えた時、やりたい事の大きなテーマの一つが「バイオリン作り」でした。
その誘因を思い起こすと、学生時代にコンサートでアイザック・スターンやD.オイストラフの生のバイオリンの音を聴いて感激した事にあるようにおもいます。多感な年頃、感激したときには鳥肌が立ちました。
また当時、辻久子というバイオリニストが自宅を売ってまでして、「ストラディヴァリウス」を購入しました。演奏家として凄い決断です。二千万円?三千万円?と噂され、新聞・テレビでは大騒ぎ。価格のことは兎も角、良いバイオリンは「何であんなに美しい音がするのだろ?」という素朴な疑問を持ちました。
サラリーマン生活が始まり、仕事で忙しい毎日でした。コンサートには良く行きましたが、「バイオリン作り」ついては頭にはなく、18歳からフルートを吹き始め、音楽仲間5~6人とバロックアンサンブルを楽しむようになっていました。暫くしてチェンバロとチェロも加わり、私もリコーダーやトラベルソも吹くようになり、毎週土曜日の夜は合奏とおしゃべりでとても楽しかったことを思い出しました。
また、これとは別にフルートだけのアンサンブル「Ensemble IKOMAYS」を立ち上げ、フルート合奏を楽しんでいます
。もう40年も続いています。
さて、本題に戻ります。バイオリン製作研究会の恒例行事、5月の「展示会」と11月の「研究会」(弦楽器フェアー開催時)を目標或いは励みに、バイオリン作りに精を出してきました。独学で始めたので、特定の師匠はいなくて、会員の皆さん全員が師匠であります。貴重な技術、情報などを皆さんから教えて頂き、それを作品の中に落とし込み、一台
、一台丁寧に作ってきました。
毎回、製作にあたり構想を練るのですが、必ず新しい試みを織り込みます。実際は中々思うように行かないので、結果を良く吟味し、次作にどう展開するか悩むところです。
ここ5、6年前からはバイオリン本体の内部空間を意識して、どんな空間が音響的に望ましいかを考えて、表のアーチを削っています。良い方向には向かっている様には思いますが、…。アーチの外観・フォルムは以前より美しくなり、音質も良くなってきた感はあります。

只今、4台目のチェロを製作中です。モデルはM.ゴフリラーの「Schneider」(1693年)です。P.カザルスが愛用していたチェロと同じ作者のものです。その音色は私の憧れの音そのものなのです。齋藤久吉さんから作図のコピーを送って頂き、7月から製作準備に入りました。内型の製作、横板の取り付けが終わり、漸く11月から裏板のアーチの削りの仮仕上げに近づいている段階です。
このチェロはサイズ(単位mm)が「胴長:770、横幅UB:360、CB:256、LB:462」と大きめですので、削り出す量は半端ではない。77歳になった老人としては1日2~3時間の作業がやっとで、へとへとになります。このペースで行くと、完成は来年6月ぐらいになりそうです。

櫛刃の豆カンナについて一言。アーチの削りにおいての有用性を再認識しました。削り落とすべき所を櫛刃自体が感知し、削り取ってくれる。「道具が仕事してくれる」という感じです。