【製作者紹介】佐藤康夫さん

今回ご紹介する先輩はVSJの初代会長佐藤康夫さんです。2001年、日本弦楽器製作者協会の私達の準会員が存続の危機にあった時、佐藤さんは私たちの代表となって、権利を守り、平和的に分離、独立させるために尽力され、初代会長として当会を一人立ちさせてくれた方です。

佐藤さんは1933年1月新潟県上越市(直江津)に生まれ、旧制高田中学、高田高校を経て早稲田大学第一理工学部を卒業。首都高速道路公団計画部長、八千代エンジニヤリング(株)常務取締役などを歴任。

バイオリンに初めて触れ合ったのは、幼少の頃に蓄音機で聞いたエルマンのトロイメライ。高校の時、お父様に鈴木バイオリンを買ってもらったが、演奏は中断。社会人になって仲間と弦楽合奏をはじめ、それが縁で行方不明になっていた鈴木バイオリンと再会する。

そして修理のため松岡順治氏と運命的な出会いをすることになったのである。バイオリンを作り始めたのは40歳の頃、全ての精力を製作一筋につぎ込んだ。当時は情報も少なく、松岡氏の話とヘロン・アレンの本が頼り。技術は自分で盗むものという職人気質の時代で、先輩の話に耳をそば立て、楽器を穴の開くほど見て回った。

近所のお宅にDel Gesuがあるらしいことを聞きつけて弾かせてもらいに行ったり、デパートなどの展示会を見つけては、頼み込んでStradやDel Gesuを弾かせてもらった。ニスを探して電話帳を頼りに江東区界隈をさまよい歩き麒麟血を求めて漢方薬店を訪ね、カテキュウは織物店で見つけた。とにかくホルバイン社を訪ねてもマスチックの名前すら知らないという時代だった。

佐藤さんの楽器作りは上述のように、楽器を良く見て、実際に弾くことから始まっています。日本弦楽器製作者協会の準会員となり、1990年に手工弦楽器展にて協会賞を受賞されています。

「バイオリンは基本的に音楽を奏でる道具ですから、ちゃんとした音が出なければなりません。しかしその上にきっちりした製作技術と美的要素が必要だと思います。良い楽器は必ず何か美を感じさせます。またその様な楽器は音もしっかり出ていて、完璧な楽器はオーラすら感じさせます。表板、裏板などのアーチングを見れば、その楽器がどのような音が出るか、おおよその想像ができるものです。」とおっしゃっていました。

佐藤さんは長年製作されていますが、自分の楽器には色々な欠陥が目に付き、未だに満足できる作品がないとのことで、現在も謙虚に製作に取り組まれています。

今後のVSJに期待することは?「バイオリンの製作にはプロもアマもありません。より良い楽器を製作しようとする製作者は勿論、バイオリン製作に興味のある音響研究者や演奏家にも参加してもらい、自由に話し合い研究し合える、開かれた会になってもらいたい」とおっしゃっていました。

当会初代会長で名誉会員の佐藤康夫さんは2025年1月13日にお亡くなりになりました。
同年展示会初日、5月17日15:00からのミニコンサートの最後に佐藤さんの楽器で星野美葉さんに追悼曲を演奏していただきました。

NHK 「音楽の広場」に出演。81年2月 佐藤さんと黒柳徹子さん、故芥川也寸志さん、無量塔蔵六さん
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